飲食店において2022年見えてきた課題と2023年の処方箋

外食ライターのさとう木誉です。今年も2022年のまとめ&2023年のヒントについて執筆させていただきます。いや〜、今回は本当に書くのが難しかったです。取材活動をしていて、2022年ほど前向きな打ち手を打っていると感じられる事例が極端に少ない年はなかったのではと感じました。

新型コロナウイルスのパンデミック発生から3年。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置といった行動規制も2022年3月を最後に、第7波、第8波と言われる感染者急増の時期も発令されなくなりました。2023年は5月をめどに分類を5類に改める方針で、文字通り「ウィズコロナ」時代の幕開けとなります。

とはいえ、皆さんすでに実感されているように客数の戻りの悪さや物価高といった「後遺症」をいくつも抱えながら、社会が癒えるのを見守る一年になりそうな予感です。そこで今回は昨年(2022年)見えてきた重要課題を3つピックアップし、将来に向けた処方箋を提案していきたいと思います。


【課題1】コロナ禍前に戻ってない

日本フードサービス協会が発表した外食産業市場動向調査による2022年11月度売上げを見ると前年同月比で+8.9%増。コロナ禍前の19年比+0.7%増で、外食市場の復調を強調する報道もありました。
しかし実状は異なります。パブ・居酒屋カテゴリだけを見ると、前年同月比こそ+14.7%をマークしたものの、19年比では―38.6%と依然として厳しい状況です。ファミレスやディナーレストラン、喫茶店も19年比では6.1〜15.5%のマイナスで、業績アップをけん引しているのはファストフードのみ。かねて囁かれていた「ポストコロナは7割経済になるだろう」という予言に現実味が帯びている状況です。
また東京商工リサーチによれば、大手居酒屋企業16社だけでもコロナ禍の3年間で1,274店舗も減少。実に20%近くも居酒屋市場が縮小したと言われています。

【23年の処方箋】

  1. 今年は宴会需要増にトライしてみよう
  2. 家族客を味方につけよう
  3. ノンアル拡充で利益を拡大

1. 今年は宴会需要増にトライしてみよう

政府は5月をめどに新型コロナウイルスの分類を2類から5類へ引き下げる方針を示したことが話題になりました。5類になればインフルエンザと同様の扱いとなり、流行しても行動制限はなくなります。これをきっかけに「やっと宴会ができる」と考えるグループや企業が増えてくることでしょう。今年はどこまで宴会ニーズが戻るのかトライする価値があると考えます。春の歓送迎会シーズンは時期尚早ではありますが、宴会で稼いでいた居酒屋チェーンが激減している今は思わぬチャンスかもしれません。

2. 家族客を味方につけよう

先ほどの〈今年は宴会需要増にトライしてみよう〉とは真逆の意見を述べるのは矛盾しているように思われるでしょうが、宴会の戻りは限定的だと考えます。新しいターゲットとして有望なのが「家族客」です。夫婦共働きが7割弱を占める現代、食事のアウトソーシングが進んでいます。これまではファミレスあるいは中食というイメージでしたが、「串カツ田中」「肉汁餃子のダンダダン」など子連れも食事利用しやすい居酒屋が増えたことで、家族の食事を居酒屋ですることに対する抵抗感が薄れてきています。「〆(シメ)」ではなく「おかず」としてファーストオーダー時に注文できる食事メニューを打ち出すことが家族客集客のポイントになってくるでしょう。

3.ノンアルコールドリンク拡充で利益を拡大

ノンアルコールドリンクがジワジワとですが普及が進んできています。ソフトドリンクにひと手間を加えることでプラス100〜200円を実現できます。まずはレモンサワー用シロップのソーダ割あたりから始めてはいかがでしょうか。アルコールを入れるか入れないかの違いで作れるものにすればオペレーション負荷をかけずにすみます。またノンアルコール&低アルコールドリンクは〈家族客を味方につけよう〉で述べた家族客、とりわけ母親に喜ばれること請け合いです。


【課題2】値上げラッシュ

外食業界にとって2022年最大のトピックだったのが「値上げラッシュ」でした。東京商工リサーチによれば大手外食チェーンの約7割が値上げを実施。2〜3回に分けて値上げを繰り返したチェーンもあり、値上げ幅は5〜10%が最多という結果でした。業界のプライスリーダーたちが揃って値上げをしてくれたことで、個人店にとっても値上げしやすくなったと思います。
一方で食材費、人件費、光熱費とあらゆるコストの上昇も著しく、値上げしても利益が上がったわけではありません。経営者の皆さんは今年も引き続き値上げのタイミング、値幅を見極める難しい舵取りが必要になりそうです。
悩ましいのは、外食に限らずあらゆるモノが値上がりしているにもかかわらず、国民の実質賃金は上がっていないという現実です。今後ますます価格に敏感になりそうな予感がします。

【23年の処方箋】

  1. 価格変動耐性をつけよう
  2. インバウンド客を味方につけよう
  3. ローカル立地で家賃比率を下げる

1. 価格変動耐性をつけよう

ホテルの宿泊料金などでは繁忙期には高くなり、オフシーズンは安くなる「ダイナミックプライシング」という仕組みがあります。それとは使い方は大きく異なるのですが、商品価格を断続的に変更することをお勧めします。要するに価格を固定するのをやめるという発想です。日本は30年近くほとんど物価が変動しませんでしたが、欧米ではむしろ異常なこと。日本も今後はそうなってくるでしょう。たとえば全品日替わりメニューの店などは、昔から仕入れ価格に応じて価格調整しています。値上げだけでなく値下げも織り交ぜて「原価」とシビアに向き合うことが満足度と利益を両立させるのです。

2. インバウンド客を味方につけよう

インバウンド客を狙える業態であれば価格よりも価値を軸にメニューを磨きましょう。デフレと円安の最強タッグは外国人観光客にとって喜びしかありません。日本は宿泊も食も買い物も「安い」。日本政府観光局によると2022年12月の訪日外客数が130万人を超え、ようやくインバウンド復活の足がかりができたところ。全盛期は月間300万人の規模で訪れていたことを考えると、伸びしろの大きさがわかります。

インバウンドに関してはコチラの記事もぜひご覧ください。
インバウンド対策!飲食店がするべき5つのことと外国人に人気のお酒

3. ローカル立地で家賃比率を下げる

生活に密着したローカル立地に注目する外食企業がじわじわと増えてきている印象です。ターゲット客層が個人やファミリーといった小グループとなり、宴会需要がなくなれば繁華街に店を出す必要がなくなります。立地だけでなく店舗規模も小さくなるので家賃を低く抑えることができます。集客効率を高めて売上増をめざすことから、利益をコツコツと積み上げるほうに優位性が移ったと言えるかもしれません。


【課題3】商売替えの成否明確に

デリバリーやネット販売など店舗プラスα型の事業については、「イチ早く」「ガチで」取り組んだ企業のみが実を得ることができ、その他の店は「片手間にやって売上げ補填できるようなものじゃなかった」という結論になってきたなという印象です。
コロナ禍以降で存在感を発揮した新業態といえば「ハンバーグ丼専門店」。「挽肉と米」「挽肉屋 神徳」「ハンバーグ嘉」「歓喜の牛」などなど個店の大ヒット店が続出しています。
「焼肉店」に業態転換する店が多いのもご存じの通り。オーソドックスな焼肉店だけでなくホルモン焼き、ジンギスカン、サムギョプサルと裾野が広がっている点が特徴で、まだまだ市場拡大の余地がありそうな印象です。ちなみに寿司については、都市部に限定されますが客単価8,000円~1万円ゾーンのミドルアッパーと呼ばれる価格帯のヒット店が増えています。

【23年の処方箋】

  1. テイクアウトは続けた方がいいと思う
  2. 富裕層か大衆か、それが問題だ
  3. 「生ビールの美味しい店」になっているか

1.テイクアウトは続けた方がいいと思う

細々で良いので「テイクアウト」だけは店頭でアピールし続けておくべきだと考えます。理由は「今後も何らかの災害で店舗営業が大打撃を被る可能性があるから」です。近年はテイクアウト窓口を設置した飲食店が増えています。平時のうちからテイクアウトを浸透させておけば、次の災害時に効果を発揮できると考えます。

2.富裕層か大衆か、それが問題だ

今後ますます格差が広がっていくと予測します。飲食店への影響としては「客単価の設定」を見直す必要が高まるでしょう。酒場・食堂と銘打った新しいタイプの居酒屋は客単価3,000円より下回っている業態が多い。一方で客単価8,000円〜1万円のヒット店が目立っているのですが、外資系企業やIT部門で高い給与を得ている若い世代を狙える商圏です。これまで主流だった客単価3,000円〜5,000円のゾーンは難しい立ち位置になってくるように感じています。

3.「生ビールの美味しい店」になっているか

「商売替え」という見出しと真逆な提案で恐縮ですが、年々需要が下がり続けていると思われている生ビールに今一度向き合うことがお客に選ばれる店になるポイントになりそうです。覆面調査サービス「ファンくる」を運営しているROIの調査によると、外食時にビールを1杯以上注文する割合は84%と健在ぶりを示しています。そして生ビールは店の品質管理次第で味が大きく左右します。お客様に「前行った時に生ビール美味しくなかったな」と思われて選択肢から外されてしまわないようにしましょう。飲食店の基本である「美味しい」は、やはり選ばれる店に不可欠なのです。

生ビールはサーバーの洗浄やガス圧、注ぎ方などによって味が変わります。また、消費者は常に「美味しいビール」を求めていることは間違いありませんが、コロナ禍であることや、酒類の値上げが行われることでさらに「美味しいビール」を求める意識は高まることでしょう。
競合店との差をつけるためには、従業員全員が美味しい生ビールを注げるようになることや、そのためのサーバーの洗浄、適正なガス圧、グラスの選び方などの準備も必要です。

業務用酒販店であるなんでも酒やカクヤスでは、飲食店様に向けてビール会社各社のセミナーなどのご案内もいたしますので、ビールの品質向上を視野に入れている方、他店との差別化を図りたいという方は、ぜひ一度お問合せください。


この記事を書いた人

さとう木誉(きよし)

外食ライター
都内在住。繁盛店取材だけでなく経営マネジメントに関する取材活動を中心とする。「月刊食堂」「外食レストラン新聞」「外食図鑑」といった専門媒体の他、食品商社や外食コンサルタント等の宣伝企画にも携わる。
好きな酒は熱燗。好きなツマミはガリ〆さば。

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