2020年の外食ニュースまとめ・2021年を生きのびるヒント

外食ライターのさとうです。2020年は外食業界と関連事業に携わる方々にとって本当に辛い1年でした。そして本稿執筆中の1月16日も二度目の緊急事態宣言中。

2021年も外食業界にとって生き残りをかけた厳しい1年になりそうです。 そこで本稿では、ただ2020年に流行った外食ニュースを選んでただ解説するのではなく、”2021年を生き延びるためのヒント”になりそうなトピックを厳選して解説してみたいと思います。そういうわけで「え?」と思えるようなマイナーな話題も取り上げていますが、ひとつでもお役に立てることがあれば幸いです。

2020年の外食ニュース 10トピック

では、いってみましょうか。私が選んだ2020年の外食ニュースは次の10トピックです。

  1. コロナ禍による外食市場縮小
    緊急事態宣言など外食に対する圧力大きく6兆円が蒸発
  2. リモートワークで商圏激変
    オフィス街から郊外にシフト。ワークスペース提供に商機あり
  3. 非接触型サービス
    支払いや注文がスマホでできるように。特急レーンやロボット活用の焼肉店が急増
  4. ノンアルコール・バー登場
    ソフトドリンクからノンアルカクテルにシフトしよう
  5. 居酒屋サバイバル1:宴会需要蒸発
    感染予防の観点から宴会や会食がほぼ不可能に
  6. 居酒屋サバイバル2:食堂化
    店名に「食堂」を銘打つ居酒屋がじわじわと増えている
  7. 居酒屋サバイバル3:スナック化
    ホリエモンが提唱する「スナック最強」説を考える
  8. 低投資型ビジネス
    大手外食企業がコンテナ活用やキンチンカーの新業態を開発
  9. テイクアウト、デリバリー、EC
    イートイン以外の売り方がなければ生き残れない時代に
  10. コロナ禍でも行列ができる店
    スペシャルな外食体験の価値はやはり普遍

1位:コロナ禍による外食市場縮小

ありがちなカウントダウン方式ではなく、気前よく上位から解説していこうと思います。まずはデータから見ていきましょう。

富士経済が2020年7月28日に発表した予測によると外食市場は前年比16.5%減とのこと。ざっと5兆6300億円が蒸発した計算です。また日本フードサービス協会が2020年12月25日に発表した11月度の市場動向調査によると全体の売上高としては約8%減。下位のほうで詳述したいと思いますが、居酒屋などアルコール業態にいたっては42.8%減と売上げがほぼ半減しているという状況です。

「Go To Eat」で盛り上がっていた時期でもコレかあ。。。

そして東京商工リサーチが2021年1月7日に発表した「飲食業の倒産動向」によると飲食業倒産の数は842件となり、東日本大震災のあった2011年(800件)を超えて過去最多業態別ではここでも「酒場、ビヤホール(居酒屋)」は174件といちばん多い結果となっています。 現在も緊急事態宣言中であり、2021年も引き続き厳しい状況が続くと言わざるを得ません。さらにいえば、もうコロナ前と同じ社会に戻るということはないでしょう。生き残れるのは、環境の変化に適応して自らを変えていくことができたものとなるでしょう。

そこで2位以下に環境変化とその適応策について紹介していきたいと思います。

2位:リモートワークで商圏激変

2020年4〜5月の緊急事態宣言が解除された後に、飲食店売上げの戻りが早かったのはオフィス街、繁華街よりも住宅街立地でした。また緊急事態宣言中の売上げ減少幅が比較的抑えられたのも住宅街立地でした。

大企業を中心にリモートワークが普及したことも大きいですし、勤務を再開させても仕事の後に飲みに行かずに地元で飲食するという傾向も増えています。リモートワークについては比較的給与の高い大企業から進みます。となると外食にお金を使う余力のある客層の行動がシフトするわけですから見逃せません。

先日、再度緊急事態宣言が発令されたことで某社のオンライン会議に参加したのですが、出席者の中には自宅にいるにも関わらずコートを着込んで寒々とした廊下からアクセスしている人がいました。リモートワークが当たり前になってくると「自宅に仕事スペースがない」「自宅で仕事したくない」「ときどき自宅外で仕事したい」というニーズは大きくなってくると予測できます。とりわけ郊外エリアはリモートワークスペースが圧倒的に足りないガスト、スタバ、ドトールだけは間に合わなくなっています。居酒屋でも定食店でも電源とWi-Fiを全卓利用可能としてワークスペースとして提供したり、ディナータイムを除いて仕事場として客席を解放する飲食店モデルが増えてくると思います。

参考になるのは「こだわりもん一家」など居酒屋事業を中心に展開する一家ダイニングが千葉・本八幡と流山に出店した「Remo Cafe」です。コワーキングスペースの機能を持ち、フードは手作りの定食やカフェメニューを用意。飲食店の付加価値で差別化した好例といえます。

3位:非接触型サービス

もともとスマートフォンによる決済システムやモバイルオーダーといった外食向けITツールが登場していました。なかなか普及が遅々として進んでなかったところに新型コロナウイルスの感染流行により人との接触を避けるよう叫ばれるようになったことで導入に拍車がかかった形です。

個人的にもオーダーテイクについては接客による満足度を高めるよりも、呼ぶ手間や待つことによるストレスの方が多いと感じていたし、支払時も財布から現金を出して支払うのって時間かかるなと思っていたので非接触型が浸透しやすいと考えます。

話が変わりますが焼肉の食べ放題業態で特急レーンやロボットの活用事例が増えています。ワタミが東京・蒲田に出店した焼肉の新業態「かみむら牧場」や岡山・倉敷の「焼肉まるい精肉店」などです。これも人との接触を避けながら外食を楽しめると集客にプラスになっているとか。

感染予防の努力をアピールできる非接触型ツールは、顧客満足にも従業員満足にもつながることは間違いありません。効率化にもつながるのでオススメです。

4位:ノンアルコール・バー登場

ノンアルコールのカクテルを提供するバー「0% NON-ALCOHOL EXPERIENCE」が東京・六本木に、そして京都・祇園でも「Non Alcohol Bar」がオープンしました。

私じしんはかなりの呑兵衛でありますが、外食ライター的には「ノンアルコール・カクテル」はイチ推しのドリンクです。今後じわじわと居酒屋、レストラン業態の新しい収益アイテムとして注目が高まってくると声を大きくして言いたい。

どのお店もソフトドリンクを提供していますが350円とかですよね。それを少し手間をかけてお洒落にすることで500〜600円とかサワー並みの値付けができるわけです。しかもお酒を飲まないお客も抵抗なく利用できる店になって新しい客層を掘り起こせますし、ドリンク売上げ比率がアップして収益性も良くなるといいことづくめ。

業界への提案という意味を込めて上位にランクしました。

5位〜7位:居酒屋サバイバル

1位でも少し触れましたが、居酒屋などアルコール業態がもっとも深刻な状況です。店舗数も前年比12.6%マイナスと大きく縮小しています。チェーン企業中心のデータでもこのような状況ですから、個人店の大変さを考えると身につまされます。そこで昨年の取材経験をふまえつつ居酒屋をはじめとするアルコール業態にとっての2021年の戦い方を考えてみました。

宴会需要なしの戦略づくり

まずは「宴会需要なしの戦略づくり」。「言われなくてもわかってるよ!」という声が聞こえてきそうで申し訳ないのですが、やはり宴会ゼロでも損益計算書が黒字になるモデルを作らないと持続性がありません。

2位のところで述べたように宴会用スペースをワーキングスペースとして解放したり、デリバリーやテイクアウト商品の開発、またグループ店のセントラルキッチンとして活用する等々イートイン以外の売りは時間をかけてでも探してほしいところです。

居酒屋と食堂の融合

二つめが「居酒屋と食堂の融合」です。実は近年、メニュー構成は居酒屋なのに店名に「食堂」が付く繁盛店をちらほか見かけるのです。東京・三軒茶屋の「食堂 かど」(2020年4月オープン)、福岡・博多の「食堂 うめぼし」(2018年6月オープン)などです。

昔から「居酒屋だけど食事利用もできますよ」と言っている店は数多くあったのですが、さすがに店名に食堂を付けちゃうことはなかったですね。屋号、メニュー構成、内装などを見直すときのキーワードになると思います。

スナック最強説

最後にホリエモンこと堀江貴文氏がよく言っている「スナック最強説」です。読者からお叱りを受けそうなネタですが。。。この真意はスナックに業態転換しろというのではなく、店主がいれば営業が成立するマイクロ居酒屋という作戦です。ホリエモン曰く「スナックに来る客は酒を飲みたくて来てるのではない。ママ(店主)と話をしに来てる。ほとんどの客が常連になっていくんだ」と。そうした人間くささを受け入れる懐の深さを持つのは居酒屋も同じだと言いたいのです。

格好の事例が東京・五反田の「きになる嫁デラックス」(2017年6月オープン)という店。わずか5坪16席の規模で坪月商68万円という実績もさることながら、注目すべきは料理やドリンクの提供スタイル。2時間制の食べ飲み放題というシステムですが、料理はお客が注文するのではなくスタッフが気ままにみつくろって提供する。実はそこに「嫁」っぽい気づかいが生まれて男性客を魅了しています。

自粛モードが少し緩んだ6月〜10月に感じたことですがグループ客利用主体のチェーン居酒屋は回復せず、常連客がついている10坪前後の個人店は完全復活という状況でした。今後は若い世代を呼び込む「小料理屋の再定義」がヒットすると私はみています。

8位:テイクアウト、デリバリー、EC

たいていの2020年の外食ニュースでは上位に入りそうなネタですが、私としてはあえて下位に取り上げたい。というのも、私の取材経験をふまえても地域密着の個人店にとってあんまり恩恵なかったなという実感なんです。メディアでは成功事例ばかりが目立つけど。

テイクアウトもデリバリーも市場規模じたいは確かに大きくなっています。とはいえ、調査会社の予測をみてもテイクアウトが前年比2.3%、デリバリーが8.1%という程度なのだそう。その伸びのほとんどがファストフード・チェーンで占められているのかなと。

仮に上記の市場拡大を月商300万円の居酒屋に当てはめて正確性を無視したシミュレーションをしてみましょうか。テイクアウトとデリバリーの売上げが市場規模拡大ぶん得られたとして8.1%+2.3%で月31万円ほど。イートインの売上げダウン(市場動向調査では▲42.8%だから128万円減)ぶんを補填するにはほど遠いことが見てとれます。そう考えると外食業界に与えたインパクトがそう大きく感じないんですよね。


そうはいっても、これらは先ほどさらっと述べたとおり長期的には新しい収益源とすべき販売手法だと思います。テイクアウトで将来的に活性化の予感を感じているのは店舗をイートインと食物販の2エリアにしたグローサラント型店舗です。「俺のフレンチ」など「俺の」シリーズで一世を風靡した店の最新店「俺のグランマーケット」(20年12月オープン)がわかりやすいでしょうか。

テイクアウトしやすい料理の販売だけでなく、店で使ってるこだわり調味料やドライ食材も売っちゃうスタイルです。

デリバリーではグロブリッジが急成長させているデリバリーブランド「あげたて」が好事例として上げられます。飲食店のキッチンを活用しますが店の商品をデリバリーするのではなく、唐揚げに特化した別ブランドを展開して成功しました。「あげたて」については後日、詳しく取材した記事をアップしますので、ぜひ読んでいただければと思います。

9位:低投資型ビジネス

外食企業によるキッチンカー活用の新事業が目立ってます。高級フランス料理店などを展開する東京會舘が日替わりの弁当を販売する「ビストロワゴン」を、カラオケ事業を展開する第一興商は東京・秋葉原にだし巻きバーガー店「D-Kitchen」をそれぞれスタートさせました。

また九州、関西でキッチンカーの販売スペースを提供する「メロウ」の登録数が前年比2倍で伸びて1000店を超えたそうです。コンテナ活用では、ワタミが新業態「唐揚げの天才」でコンテナ活用の新店をオープンさせました。これを初期投資999万円モデルとしてFC展開を計画しています

キッチンカーもテイクアウト等と同様に成功事例が少ない営業モデルです。そうではあるのですが「投資を下げたビジネスモデル」は増えていくことは間違いありません。居酒屋サバイバルの解説で常連客だけで回せるマイクロ居酒屋をオススメしましたが、これも低投資ビジネス化のひとつといえます。

当サイトでもご紹介した東京・新橋の「おけい屋」の姉妹店「Viva! okei」でコロナ禍をきっかけに撤退後7月に移転リニューアル。18坪から7坪に規模を縮小させて再スタートを切って坪月商55万円の好調ぶりです。

10位:コロナ禍でも行列ができる店

最後くらい明るいニュースで〆ようと思ってランクイン(苦笑)。ソーシャルディスタンスが求められたさなかにあっても行列ができた新業態をご紹介します。

まずは愛知・名古屋の「覚王山フルーツ大福 弁財天」(2019年10月オープン)です。「フルーツ大福」という新しい和菓子を提案して1日5000個を売るという凄まじさ。

食事業態では東京・吉祥寺のハンバーグ専門店「挽肉と米」(2020年6月オープン。公式ホームページがないのでググってみてください)。メニューがハンバーグとごはんのセットのみという振り切ったコンセプトながら連日200人を超える集客力を発揮しています。

コロナ禍においても食のエンタメ力は健在だったことを証明する2店舗といえます。正直ヒットの要因は「食べてみたい!」という強烈な欲求を生み出すほどの商品力に尽きると思います。

今は誰もが「気兼ねせずに外でおいしい料理を食べたいなあ」と思いながら不便な生活を強いられていることは間違いありません。変化した生活様式が完全に元に戻るとは考えづらいですが、コロナ禍はいつか終わります。そうした時に、長らく我慢してきたお客さまが、どっと外食に戻ってきてくれることを願ってやみません。

この記事を書いた人

さとう木誉(きよし)

外食ライター
都内在住。繁盛店取材だけでなく経営マネジメントに関する取材活動を中心とする。「月刊食堂」「外食レストラン新聞」「外食図鑑」といった専門媒体の他、食品商社や外食コンサルタント等の宣伝企画にも携わる。
好きな酒は熱燗。好きなツマミはガリ〆さば。

ご注意

※ 掲載店について、カクヤスとの取引の有無は関係ありません。
※ 取材時点での情報です。
※ 最新の営業状況は店舗にお尋ねください。


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