お店都合の「おかわりいかがですか?」が店をダメにする

「その日は忘年会のピーク日なので、18時か21時じゃないと予約を受けられません。申し訳ありませんが、今、忙しいので14時以降にお電話いただけますか」。先日ランチを取っていた飲食店で、偶然、小耳に挟んだ店長が話していた電話での一場面です。

短時間にお客様が集中するランチタイムは、飲食店にとって戦場。そんな忙しい時間帯に、予約の電話をかけてくるお客様の方が非常識だと言わんばかりに、早口でまくし立てるようにしゃべっていました。でも、そのお客様にも都合があります。自由に電話がかけられるのは、お昼休みぐらいだけかもしれないし、宴会開始時間だって19時しか無理なのかもしれない。このように飲食店とお客様の都合がかみ合わない場面は散見されます。

誰のための接客をするのか

店内BGMを店舗スタッフに選択させると、自分たちの作業がリズムよく進むという理由で、テンポの速い曲を選択することが多いです。しかし、その曲調だとお客様は落ち着かず、早く食事を済まして出て行って欲しいとさえ感じます。これは従業員の心地良さに合わせた結果です。
作業をしている従業員は動いていますが、食事をしているお客様は座っています。速いテンポの曲は、動いている従業員の都合であって、座っているお客様の都合ではないのです。

「自分がお客様になったつもりで接客しなさい」。飲食店の現場トレーニングでよく耳にする言葉です。「その通り」と頷く方も多いでしょうが、これは間違った指導方法です。これを軸に接客すると、店都合の行動を起こしてしまう可能性があります。
例えば、お客様から店のオススメ料理を聞かれた時に、この指導方法だと、店舗スタッフは自分の好みの料理を答えることになるでしょう。往々にして、若いスタッフは、量の多いもの、油分の多いもの、肉類や麺飯類をお勧めすることが多いです。
しかし、お客様の年齢が高く、かつ、はしご酒の2軒目利用だった場合、欲している情報とお勧めした料理がかみ合わないことになってしまいます。そのオススメは、スタッフの好みであってお客様の好みではないからです。正しく伝えるなら、「自分が “そのお客様” になったもりで接客しなさい」でなくてはならないのです。

おかわりは誰のため?

居酒屋の定番接客「おかわりいかがですか?」も同じようなことがいえます。トレーニング中に、店舗スタッフから言われた衝撃的な言葉があります。『「おかわりいかがですか?」って聞いてくる店、うざいから嫌い。欲しかったら、こっちから呼ぶからいいのに』。実際、若いスタッフに聞いてみると、このトークを悪い接客だと答える方が多いです。洋服屋で「サイズお出ししますよ、試着どうぞ」と声をかけられているのと同じ感覚だとのこと。必要なら自分から声をかけるので、自分が楽しんでいる時間に入ってきてほしくないという気分だそうです。
店舗オペレーションマニュアルには、『お客様のグラスが1/5になったら、ドリンクアタックを。お客様の目を見て、右手でグラスの方を指し、「お飲み物はいかがですか?」または「おかわりいかがですか?」とお聞きしましょう。』と記されていたりします。

そもそも、このルールは何故できたのでしょうか。客単価を上げる目的で書かれたということはないでしょう。なぜなら、オペレーションマニュアルは、お客様満足を目的に記されたものなので、店都合を押し付けるルールが書かれていることはないからです。
そうすると、目的は一つ。「常に、お客様に飲み物に不自由のない状態を提供したい」からできたルールです。

ここで疑問が生まれます。お客様は、常にがぶがぶとドリンクを摂取したいのでしょうか。フードだったらどうでしょう。テーブル上のお皿をプレバッシングする際、「お料理の追加はいかがですか?」と注文を促すような言葉を投げかけるでしょうか。ドリンクだけ追加注文を促す接客をするのは何故でしょうか。

この接客が実施されるのは、主に居酒屋などアルコール主体業態です。「呑みに行く」という名の通り、お客様は飲酒目的で来店します。それを前提として、お客様満足の為のおもてなしの言葉として生まれたのが、「おかわりいかがですか?」でしょう。
さて、今の居酒屋のお客様利用の主動機はいかがでしょうか。アルコールを摂取して酔うために来店されるお客様もいらっしゃるでしょうが、それ以外の目的の方もたくさんいらっしゃいます。外食でしか楽しめないこだわりのお酒を味わうため、ドリンクよりフードがメインで美味しい料理で満腹になるため、仲間との会話をゆっくりと楽しむためなど至酔目的以外のお客様の方が多いのではないでしょうか。

また、それを裏付ける根拠もあります。居酒屋におけるフードとドリンクの売上構成比です。バブル期まではドリンク比率は高かったです。しかし、バブル崩壊後、はしご飲食から一店完結型の飲酒スタイルに変化したり、ノンアルコールでも楽しめる場に居酒屋が工夫した結果、ドリンク売上構成比は下がっていきました。つまり、高度経済成長期からバブル期に向けた時代と比較して、居酒屋の利用動機は多様化してきているのです。居酒屋における顧客価値観が変化する中で、どのお客様にも一律で、「おかわりいかがですか?」は、けっして良い接客とはいえない時代になったといえましょう。お客様の当店の来店目的は何かを見極め、ドリンクアタックをすべきか否か判断するのが最高の接客といえるではないでしょうか。

ホールスタッフは押し売りではない接客を

飲食店の目的は、飲食を提供してお客様満足を得ること。そう考えると、店舗ホールスタッフの役目は、「御用聞き」や「配達屋」ではなく、「お客様の楽しい時間をお手伝いするサポーター」になります。だから、気にすべきことは、テーブル上のグラスの状態ではなく、お客様の行動なのです。

食事を楽しんでいらっしゃるか、不都合は起きていないか、お客様の行動から察します。お客様が何かして欲しいと思った時には、顔を上げたり、店舗スタッフと目を合わせようとしたりします。ドリンクに関してもなくなったことを知らせるお客様からのサインがあります。

お客様が生ビールを飲むときの顎の角度でグラスの量の減り具合が判ります。
サワー、ハイボールなどミックスドリンクが空になった時は、グラスを置いた時に氷の音がカランと鳴ります。
グラスにワインがなくなった合図は、お客様が飲む時のグラスを持つ手の位置と顎の角度の高さをみることです。
日本酒の徳利も注ぐ角度で残っている残量を推し量ることができます。

お客様の何気ないサインを見落とさないようにして、お客様の楽しい時間をお手伝いしていれば、結果、会話も弾み、長居もします。そうなれば、自然にドリンクは動いていくものです。押し売り的な「おかわりいかがですか?」より、お客様から自然に発せられる「もう一杯」に繋がる接客。このシーンが創れれば、繁盛店になるでしょう。

この記事を書いた人

鬼頭キヨシ

フードビジネスコーチ
NPO法人FBO(料飲専門家団体連合会)顧問

1968年愛知県名古屋市生まれ。1991年上智大学理工学部数学科卒業後、ビールメーカー入社。外食事業、外食コンサルティング業務に従事。その後、飲食ビジネス専門のビジネスコーチ。業態開発、メニューコーディネート、人財トレーニングなど現場実務から、経営戦略、組織創り、ビジネスモデルパッケージ化など経営全体に至るまで幅広い領域で活動を行っている。

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