業界歴30年のソムリエが答えます!意外と答えられないオーガニックワイン9つのギモン
なぜ今オーガニックワインなのか
オーガニックワインだから健康に有益である、美味しいワインになるとは言い切れません。しかしオーガニックワイン認証団体は増え続け、スペイン、フランス、イタリアの3カ国で世界のオーガニックワインの原料であるブドウの栽培面積は75%を占めています。
無農薬でブドウ栽培を行うことは通常のワイン用ブドウ栽培にくらべて何倍もの人的な労働力と生産リスクを伴います。この活動は20世紀にアメリカ人が推し進めてきたフォーティズムによる大量生産による大量消費の時代を否定する「ワイン造りへの人間の関り」や「自然への思いやり」を前提にした消費活動であると言われています。またオーガニックは「健康志向」のライフワークにも結び付くポジティブな思想で、ラベルに「オーガニック認証」があるだけでも大きな「付加価値」となります。オーガニックワインを飲むことで環境保護やエコロジーへの理解を深めることでもあります。
今オーガニックワインはとても需要が高まっています。ワイン業界でもオーガニックワインに対して様々な認証や、法令が確立しており、今後ますます需要は高まっていくでしょう。実際にオーガニックワインの専門店が年々増加傾向にあるのもその証拠ではないでしょうか。今後飲食店経営の上でワインを取り扱うのならば、オーガニックワインについて学ぶ事は避けられないでしょう。
ですがオーガニックワインと一言で言っても価格帯も国もピンからキリまであり、「酸化防止剤を使っていないのがオーガニックだ」「オーガニックワインは二日酔いしない」など様々な情報があります。
皆様の疑問に、ワイン業界歴30年の渋谷康弘が現状のトレンドに基づいたオーガニックワインの最新情報をお届けいたします。
Q1.オーガニックワインの定義とは何でしょうか?
A.定義をつけるならば「無農薬で栽培され、化学肥料を使用しない自然栽培によって栽培されたブドウを使用して醸造したワイン」です
オーガニックワインの有機農法とは農薬や化学肥料に頼らずに太陽・水・土地、そこに生物など、自然の恵みを生かしたブドウ栽培をしています。
しかしオーガニックによるブドウ栽培には多くのリスクを伴います。まず有機栽培はブドウ畑で起こるカビや病気の被害を受けやすく、大量発生した害虫に対処できないデメリットを伴います。無農薬にすることで多くのリスクが増すため人的な労働力を必要とし、気を抜けない状態が続きます。有機栽培が機能しない場合、収穫量が減ってしまいワイナリーは経営的に不安定となります。オーガニックワインは美味しさだけを追求したものではなく、環境保護を理念とした多大な人的労力を伴うものと言えるでしょう。
Q2.オーガニックワインを作るのはそこまで大変な事なのですか?
A.とーっても大変です
オーガニックワインを大きく分類すると、「ビオディナミは超自然農法」「ヴァン・ナチュールは有機栽培と自然醸造」「オーガニックは有機栽培」「リュット・レゾネは減農薬農法」です。
一言でオーガニックワインと言っても様々な思想や方法があります。原料となるブドウの栽培において、農薬を使用せずに環境に優しいブドウ栽培をすること、人手をかけて丁寧にワインを造ることは、大変な手間がかかります。どこまでオーガニック栽培に頼るかの線引きは難しく、害虫被害や病気にかかるリスクも伴うため簡単なことではありません。だからこそワイン造りにおいてブドウを有機栽培で育てるか否かを判断することは重要です。
過去には一部のワイナリーがオーガニックワインであることを強調して、割高な価格で販売しようとする例も多くあり、問題となってきました。その対策の一つとして、EUではオーガニックワインには「ユーロリーフ」による認定を行うことで消費者の信頼を獲得することを実現しています。またワイナリーがオーガニック認証団体に加盟することで、消費者が安心して本物のオーガニックワインを購入することができるようになりました。
オーガニックワインの種類と栽培方法
ビオディナミ | 超自然農法 |
ヴァン・ナチュール | 有機栽培・自然醸造 |
オーガニック | 有機栽培 |
リュット・レゾネ | 減農薬農法 |
Q3.オーガニックワインとは酸化防止剤無添加のワインの事を言うのですか?
A.いいえ。酸化防止剤は必要最低限以上必要です
ワインにおける酸化防止剤とは主に「亜硫酸塩(SO2・Sulfur)」を意味し、衛生的にワインを雑菌やバクテリアから保護する役割を果たしています。
もともとアルコール度数が12~15度のワインは、輸送中の温度変化や保管状態で傷みやすいデリケートなお酒です。酸化防止剤である亜硫酸塩は、そんなワインを劣化や酸化から守る役割も果たしています。健康に有害と誤解されがちですが、各国の厚生規定によりワインに残留する遊離亜硫酸の量が制限されているため、健康への影響はほとんどありません。
そしてワインの原料となるブドウにはポリフェノール、アントシアニン、タンニン、有機酸などの抗酸化成分が含まれているので、酸化防止剤添加量を限界まで少なくすることができます。オーガニックワインの酸化防止剤添加の量は、一般的なワインよりも添加量に制限があり、遊離亜硫酸の量も低く抑えられています。中でもEUオーガニック認証「ユーロリーフ」は酸化防止剤の亜硫酸塩添加量も1リットル当たり赤ワインでは100ミリグラム、白ワインは150ミリグラム以下と定められています。
Q4.オーガニックワインを他のワインと同様に保管して大丈夫ですか?
A.基本的には同じで大丈夫です
一般的なオーガニックワインには規則で制限された酸化防止剤が添加されています。したがって通常のワインと同じ保管方法で問題ありません。
ですが、オーガニックワインの中でも酸化防止剤無添加によるワインは温度保管を怠ると痛みやすく、酸化も早く進みます。日本の夏場はヨーロッパとは異なり、高温多湿のためにワインを冷蔵輸送、低い温度で保管する必要があります。ワインセラーや冷蔵庫での保管を怠るとワインは劣化し、本来のナチュラルで自然な味わいとは別物になってしまいます。
夏場に常温で放置されたワインは温度変化で劣化してしまいます。そうすると酢酸バクテリア(Acetic acid)の増殖による「お酢のような刺激臭(ヴォラティル香)」が感じられたり、メルカプタンによる「腐ったタマネギ・硫黄臭」の香りが現れることがあります。生鮮食品同様に冷蔵保管をしっかりする必要があります。
Q5.オーガニックワインは二日酔いしないというのは本当ですか?
A.二日酔いしないという一応の根拠はありますが、飲みすぎ注意です
アルコール飲料であるワイン(アルコール度数12~15度)を飲むとアルコールは胃と小腸で吸収されます。アルコールは胃で約5%、残りの95%が小腸で吸収されています。したがって食事をしながらワインを飲む行為はアルコールの吸収を遅らせ、二日酔いになりにくいと言われます。
しかし短時間にアルコールを多量に摂取すれば二日酔いになるのは仕方ありません。
またアルコールと同時に摂取されるワイン中の酸化防止剤(遊離亜硫酸)の量も関係していると考えられます。酸化防止剤とはワイン中に遊離する亜硫酸ですから、体内へ吸収され分解するためには負担がかかります。オーガニックワインの場合、規定で定められているので遊離亜硫酸の量が少なく、身体への負担が少ないと考えられます。そういった理由から、医学的な根拠はないものの二日酔いになりにくいとも言われています。
Q6.「オーガニックワイン」と「自然派ワイン」のどちらが正式名称ですか?
A.まだ曖昧な部分が多いですが日本では現状どちらも通じる名称です
オーガニックワインとは原料のブドウ栽培において有機栽培であることを前提としています。
しかし90年代の後半に自然派ワインと呼ばれるカテゴリーのワインが脚光を浴びたことで、一般に通例化したオーガニックワインを含む多くの酸化防止剤無添加ワインの呼び方の総称となってしまいました。実は自然派ワインとは日本だけで使用されるジャンルのワインで、その定義は曖昧でした。最近ではヴァン・ナチュール(自然醸造ワイン)として定義されたフランス産ワインだけを自然派ワインと呼ぶべきでしょう。これは無農薬によるブドウ栽培、化学肥料無添加、天然酵母での発酵、酸化防止剤無添加、無濾過による瓶詰めをした自然派ワインを意味します。
Q7.最近よく聞くビオワインはオーガニックワインよりもレベルが上なのですか?
A.オーガニックワインより細かい規定をクリアしているので信用度は高いです
ビオワイン=ビオロジックの意味もありますが、ここではビオディナミ(仏語)別名でバイオダイナミック(独語)農法によるブドウで造られたワインの略称の事を指します。これは究極のオーガニック自然農法です。オーストリア人のルドルフ・シュタイナーによって提唱された自然有機農法の一種で、古典的な循環型農業でもあります。
ルドルフ・シュタイナーは農法に9種類の調合剤(プレパラート)を考案し、農業に取り入れるように提唱しました。この農法は非効率的であり、実践するには多くの費用と人的な労働力を伴います。しかも実践することで得られる利益は少ないため、豊かで経済力のあるワイナリーが多く取り入れています。また小規模なワイナリーは「ビオディナミ」の認証団体である「デメター(DEMETER)」に加盟しています。多くの費用とリスクを伴うのでワインの価格は割高となります。
Q8.「ヴァン・ナチュール(ナチュラルワイン)」はオーガニックワインとは違うのですか?
A.相違点はブドウの栽培方法と、そのブドウの醸造方法です
オーガニックワインは有機農法を実践したブドウ栽培によって生産されるワインです。しかしナチュラルワインとは自然醸造ワインと同じ意味を持っています。簡単に言えば天然酵母発酵、亜硫酸無添加、無濾過の瓶詰めがナチュールを示唆する要因となります。フランスではナチュラルワインをヴァン・ナチュール(自然醸造ワイン)として定義させました。
近年アメリカのカリフォルニア州では、ニュー・カリフォルニアとも言われる、亜硫酸無添加、無濾過によるボトリングをするワイナリーがみられるようになりました。しかしEUのようにラベルから判断することはできないため、なかなか普及していないのが現状です。世界的に先進国のマーケットが高級志向から健康志向にシフトしていることで、ヴィーガンやグルテンフリーなどの嗜好とともに、ナチュラル志向の消費者層がヴァン・ナチュール系のワインに注目を集めています。
Q9.飲食店がオーガニックワインをオンメニューする際に気を付けることは?
A.以下の違いを明確にして、ワインリストやメニューに追記しましょう
主なオーガニックワインの認証団体
ユーロリーフ認証 | EU認証の有機食品認証 |
AB認証 | フランス政府認証のオーガニック団体 |
エコセール認証 | フランス経済省と農務省が認めた国際有機認証機関 |
ヴィーガン認証 | 英国・ヴィーガン協会認定 |
デメター | ドイツで一番古い民間認証団体・バイオダイナミック農法 |
ヴァン・ナチュール | 自然醸造ワインとしてフランス経済財政産業省による認定 |
認証は第三者による一種の「保証」となります。上記の認証を取得していないヴァン・ナチュール(自然醸造ワイン)やビオワインはあくまで生産者による資料に基づいた情報となります。オーガニックワインとメニューに記載する前に、ワイン輸入元または生産者情報を詳しく調べた方がいいでしょう。
例外として、フランス・ブルゴーニュ地方のワイナリー「DRC」「ルロワ」「ルフレーヴ」はバイオダイナミック農法を実践しながらも、あえて認証団体に加盟していません。これは圧倒的なブランド力をもった生産者としてマーケットでも認識されています。
最後に ワインブームにみる嗜好の移り変わり
21世紀、世界経済は過去にないほどの好景気を迎えています。中でも経済大国のアメリカと中国のワインの消費は他国の群を抜いています。しかし日本は長引くデフレ経済により高級ワインの消費は低迷しています。
日本の輸入ワインではチリワインがフランスを抜いてスティルワインの輸入量第1位となり、過去10年間で6倍へと成長していることは、ワインが贅沢品から日常のアルコール飲料へと変化していることを示唆しています。ワインを飲む行為自体が贅沢なことではなく、日常の延長にある楽しみへと変化していることが、ワインの消費と嗜好の変化を生んでいます。
消費者のニーズの変化がオーガニックワインのような新しいジャンルのワインの定着化につながったと言えるでしょう。
渋谷康弘ベストワインセレクト
シャンパーニュLBN特集
「ベストワインセレクト」は渋谷氏がホテル、レストラン、輸入業者など、長年にわたり培った目利き力を活かしてワイン産地に赴き買い付けたファインワインです。ベストワインセレクトの中から差別化できるシャンパーニュ、セザンヌ地区の「L.B.N.(エル・ビー・エヌ)」をご紹介します。
※飲食店お役立ちナビ(別サイト)へ移動します。
渋谷康弘ワインチャンネル YouTube
この記事を書いた人
渋谷 康弘
ヨーロッパでワインを学び、帰国後にインター・コンチネンタルホテルズグループのチーフ・ソムリエとして長年にわたりワインのサービスに携わる。シャネルとフランス三ツ星シェフ、アラン・デュカスのレストラン、「ベージュ・アラン・デュカス東京」の初代総支配人や、ワインのインポーター社長など、長年世界のワイン業界で活躍。
現在は、株式会社グランクリュ・ワインカンパニー代表取締役社長、会員制 ザ・コンコルド・ワインクラブを主宰する。
YouTube「渋谷康弘のワインチャンネル」でワインの知られざる世界を発信しています。
20歳未満の飲酒は法律で禁止されています
- 飲酒は20歳になってから。飲酒運転は法律で禁止されています。
- 妊娠中や授乳期の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与えるおそれがあります。
- お酒は楽しく、ほどほどに。飲んだ後はリサイクル。
- 20歳以上の年齢であることを確認できない場合には酒類を販売いたしません。
- 20歳未満の飲酒防止のため年齢確認をさせて頂いております。予めご了承ください。