もう困らない!「濃いワインください」と言われた時はこれで顧客満足度UPにつなげよう

「濃いワイン」とは?

先日ボルドーの赤ワインを飲んでいたお客さまに「今飲んでいるワインより、濃い赤をください」と言われました。ボルドーより濃い赤ワインってなんでしょうか。渋味(タンニン)が強いワインでしょうか?

「濃いワインを下さい」というのは、本当によく言われる言葉です。この一言でお客様の好みをドンピシャで当てるのは難しいと思います。だからと言って「ワインって難しい」と逃げてしまうのはもったいないですよね。

「濃いワイン」と言われると、果実味の凝縮感があって渋味(タンニン)が強い赤ワインを想像するのですが、それだけでは無いのでしょうか。

そういったワインをさすことで間違いではないです。ですが他の選択肢も持っておくべきでしょう。これから、実際に起こったお客様とのやり取りの中で感じた、私なりのワイン選びの考え方をお教えしましょう。


目次

  1. もっとフルボディのワインを下さい。と言われたのですが・・
    ・ボルドーの赤は全てフルボディのワイン?
    ・フルボディの赤ワインを選ぶのに押さえておきたいポイント
  2. バローロをおすすめしたら違うと言われました。  
    熟成によって風味が変化するバローロ
    イタリアの「濃いワイン」
  3. 白ワインがいいと頼まれたときはどうしたらいいですか?
    フルボディの白ワインってどんなワイン?
    フルボディの白ワインを選ぶポイント
    忘れてはいけないオレンジワイン
  4. 最後に

「ボルドーの赤ワインを飲んでいるお客様から、もっとフルボディのワインを下さい。と言われたのですが、どうすればいいですか?」

ボルドーの赤ワインはフランスの銘醸地のワインの一つで、カベルネ・ソーヴィニヨンという酸味や渋味の強い品種が主体です。メルローという果実味の豊かな品種をブレンドしたフルボディのスタイルのワインと思う方が多いでしょう。

ボルドーの赤は全てフルボディのワイン?

実は非常に凝縮感がある味わいのフルボディのワインというのは、格付けに入っている生産者のワインがほとんどです。それらのワインは非常に丁寧に栽培された凝縮感があるブドウを使い、新樽でじっくりワインを寝かせてから出荷されます。その分価格も高価格です。

多くのボルドーの赤ワインはミディアムボディで、意外とするすると飲めるようなエレガントさを併せ持つものが一般的です。一概に「ボルドー=フルボディ」と結びつけるの危険かもしれません。


フルボディの赤ワインを選ぶのに押さえておきたいポイント

■フランスのボルドーワインから選ぶポイント

フランスワインは原産地呼称のヒエラルキーがしっかりと確立されています。例えばこの質問にある「ボルドーワイン」がAppellation Bordeaux Contrôlée(ボルドー地方という大きな地域が原産地ですよ、と証明しているワイン)ならば、生産地域をさらに狭めてみましょう。ブドウの成熟度が高いことを証明している地区や村名ワイン(Appellation…Contrôléeの点の部分にHaut-Médoc、Pauillac、St-Julienなど、ボルドー地方の地区や村名が記載されたもの)を選ぶといいでしょう。

■違う国のワインから選ぶポイント

ボルドーの赤と同じ品種で違う国のワインを選ぶなら、ボルドーという温和な海洋性気候の地域よりももっと暖かく、ブドウの成熟度が一段と増すカリフォルニア産のワインやオーストラリア産のワイン、南アフリカ産のワインがおすすめです。平均よりアルコールが高くなってボディが増し、飲み応えを感じるワインにたどり着くことが出来ます。

一方、チリのカベルネ・ソーヴィニヨンはボルドーのようにミディアムボディで清涼感を持ったスタイルが多いので、先にボルドーワインと比較試飲をしておくなど注意が必要です。

■違う品種で選ぶポイント

ボルドー品種と違う品種を選ぶなら、オーストラリアなど温暖な地域で栽培されるシラーズ(シラーと言わずにあえてシラーズと書きます)をおすすめします。


シラーズはカベルネ・ソーヴィニヨン同様、小粒で果皮の厚い黒ブドウ品種です。赤ワインは黒ブドウの果皮や種を漬け込んで色や渋味を抽出するのですが、小粒で果皮が厚いとワインの色調も濃くなりやすく、渋味もしっかりとしたワインを造る傾向にあります。風味もカベルネ・ソーヴィニョンと似ており、ブラックベリーやブラックチェリーの果実風味と、甘草やダークチョコレートを思わせるスパイスの風味が特徴です。

酸味と渋味のレベルが高いこともカベルネ・ソーヴィニヨンと同じですが、唯一違うのは豊潤な果実味の部分です。カベルネ・ソーヴィニョンの場合、果実味の豊潤さを補うためにメルロをブレンドします。そうする事で、果実味が豊かで、少し喉が乾くような感覚をもたらす渋味と骨格のしっかりとしたワインになるのが特徴的です。シラーズの場合はブレンドをしなくても、単一でバランスをとることができるのもユニークなところだと思います。

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シラーズ / サイドウッド

シラーズ / サイドウッド

オーストラリア

「重たいワインを飲みたいと言われたのでバローロをおすすめしたら違うと言われました。何を選んだらよかったのでしょうか?」

お客様とのオーダーのやり取りの中で「果実味はしっかりしている方がお好みですか?」の一言を聞き忘れたのだな、と感じました。「渋味が強くてアルコール度数も高い=重たいワイン」と思い込むと陥る危険なパターンです。

ワインのボディを決める要素には「酸味」「渋味」「風味の強さ」「アルコール度数」「残糖」があります。この要素の中で「酸味」は高いとボディを下げる効果をもたらします。そして「渋味」は成熟度の高い渋味ならボディを押し上げますが、粗い渋味はボディを下げます。

熟成によって風味が変化するバローロ

イタリアを代表する銘醸ワインの一つであるバローロは、ピエモンテ州のバローロ村周辺で栽培されているネッビオーロという黒ブドウ品種を100%使用しています。

ネッビオーロ品種でつくられたワインは、若いうちは赤いチェリーやプラム、バラやスミレのような風味を感じ、酸味や渋味がしっかりと感じられる赤ワインとなります。 品種由来の、全体を引き締めるような高い酸味はアルコールの強さを感じにくくさせます。また、「パウダリーな」と表現される、ワインを飲んでいるにもかかわらず喉が渇く印象をもたらす渋味も、酸味と同じくアルコール感の広がりを引き締めます。

さらに年月が経ちワインが酸化熟成してくると、キノコやタバコ、皮革のような乾燥した風味が特徴的にあらわれるので、ジューシーな果実味は感じにくいワインであると言えます。


こんなワインをおすすめしてみては

■イタリアの「濃いワイン」


もしもイタリアワインが希望でという条件があるのなら、アマルフィ海岸や青の洞窟で有名なカンパーニャ州の「タウラージ」というワインをおすすめしたいと思います。

温暖な気候で育った凝縮感のある黒系ベリーの果実味を持つアリアニコと呼ばれるブドウ品種から、飲み応えのある赤ワインが造られます。前職の時の経験ですが、日本ではまだ馴染みがない産地なのに特に欧米から来られたお客様からの注文が多く、印象深いワインのひとつです。コロナ後、また観光に来られる海外のお客様が増えた時には選択肢のひとつに持っておくといいかもしれません。

イタリアワインで、もう少し価格が抑えられて、濃いワインながらコストパフォーマンスが良いのは南イタリアです。特にプーリア州で造られている品種「ネグロ・アマーロ」でしょう。非常に凝縮した黒系ベリーの果実味と、タンニンの強い赤ワインを生む品種で、同じくプーリア州を代表する品種でもあるプリミティーヴォ(アメリカではジンファンデルと呼ばれる)をブレンドすることもあります。酸味がカベルネ・ソーヴィニョンやシラー(シラーズ)、もちろんバローロやタウラージよりも低いため、より豊潤で厚みのあるボディを感じます。


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「濃いワインが好きだけど、白ワインがいいと頼まれたときはどうしたらいいですか?」

フルボディの白ワインってどんなワイン?

私自身、実は白ワインの方が好きで、お肉料理などしっかりとした味わいの料理と合わせるときでも白ワインを注文したくなることがあります。先に書いたワインのボディを決める要素の、渋味は白ワインには感じにくい要素なので除外して考えます。そうすると、酸味はやや控えめで、風味の凝縮感のある、さらに樽を醸造工程で使うことで樽からくるバニラや丁子のような甘やかな風味のプラスされたワインがフルボディになることが分かります。

白ワインの場合、ブドウにある爽やかで溌剌としたリンゴ酸を残した造りと、そのリンゴ酸を乳酸菌の働きで乳酸に変える造りをしたワインがあります。

ちなみに赤ワインの場合、ほとんどがリンゴ酸を乳酸に変換しているので、リンゴをかじったような溌剌とした酸っぱさはなくなります。

このリンゴ酸は冷やした方が美味しく感じる酸なので、溌剌としたスタイルの白ワインは冷菜のお料理に合わせて少し温度は低め(8〜10度くらい)で飲むのがいいでしょう。一方乳酸は温めた方が美味しく感じる酸味で、白ワインにしては少し温度が高めの14度ほどがより美味しく感じます。口中の温度差が狭まることからも、より温かな料理にはギャップが少なく調和しやすくなります。

料理とワインの合わせ方のコツは、また別の機会にコラムに書きます。

フルボディの白ワインを選ぶポイント

フルボディで濃さや飲み応えのある豊潤なスタイルの白ワインをおすすめしたい時は、温暖な気候で育ったブドウで、乳酸に変換する醸造法を使い、さらに樽の風味も加わっているワインをやや高めの14度ほどでサービスするのがいいと思います。

例えばカリフォルニアのシャルドネ、フランスならブルゴーニュ地方の南部にあるプイィ・フュッセ村周辺で作られている白ワイン、南アフリカのシュナン・ブランという品種で樽を用いた醸造をしているワインがおすすめです。

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忘れてはいけないオレンジワイン

最近は「オレンジワイン」呼ばれるワインも一般的に浸透してきました。

ジョージアで伝統的に行われている、クヴェヴリという磁器の壺を使い、果皮や種を長期に漬け込んで造るワインのスタイルが2013年にユネスコの世界文化遺産に認定されました。同年和食も認定されたことから、日本においてのクヴェヴリワインのプロモーションも活性され、認知度がどんどん広まっています。

オレンジワインは、白ブドウの果皮や種を一緒にクヴェヴリの中へ入れて、3〜6ヶ月間発酵と浸漬を行って造ります。果皮を漬け込むことで色も抽出されてオレンジ色になることからこの名前で呼ばれるようになりました。
ブドウの果皮には多くのポリフェノールが含まれているので、これが渋味となって感じます。ポリフェノール量に換算すると白ワインの約2倍の量がオレンジワインにはポリフェノールが含まれています。

焼き鳥(タレ)や豚しゃぶ鍋、とんかつなど普段なら赤ワインをおすすめしたくなるような、しっかりとしたお料理にも合わせやすいのが特徴です。

特に豊潤な果実味を兼ね備えたジョージアのカヘティ地方で造られている、ルカツティリやムツヴァネという土着品種を使ったオレンジワインもお店の個性をアピールするのに役立つかもしれません。

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最後に

ワインを扱う飲食店や酒販店で働いていると、お客様から様々な質問をされます。

自信がないサービス特有の「逃げ腰」。もちろん私も若い時は然り、お客様がワインをオーダーしそうな空気を察するとすぐに先輩を呼びに行ったり、見て見ぬ振りしたりするような、今思うとかなりサービス業として失格な態度をとっていました。20年間ワインを売る仕事をしていながら、そして多分私はかなり多くのワインと接する機会がありながらも、今でも不安はつきものです。

私は仕事をする上でモットーにしている言葉があります。

「三方よし」

自分が楽しめて、お客様が喜んでくれて、そしてお店(クライアント)の利益につながる仕事をしようということです。

ワインのおすすめを自分の言葉で言えるようになりたい!お客様からも働く仲間や先輩からも頼られる存在になりたい!お店の売り上げアップに貢献したい!と思った方のサービスの引き出しが増えるような、ワインにまつわる様々なテーマを今後も取り上げていきたいと思います。


この記事を書いた人

松木 リエ

  • WSET Level 4 Diploma(2021年合格)
  • A.S.I. 世界ソムリエ協会認定 インターナショナル・ソムリエ・ディプロマ- ゴールド(2020年合格)
  • J.S.A.認定 ソムリエ・エクセレンス(2014年合格)/ SAKE DIPLOMA(2017年合格)
  • WSET Level 3 Certified(2016年合格)
  • IWC インターナショナル・ワイン・チャレンジ審査員
  • 2015-2016 WSET Level3 Decanter Asia Wine Scholarships
  • 2014年 第7回 全日本最優秀ソムリエコンクール 第4位
  • 2006年 第4回 JALUX Wine Award 準優勝
  • 2005年 第4回 Louise Pommery Sommelier Concours 第3位
  • 2005年 第6回 ロワールワイン若手ソムリエコンクール優勝
  • 2003年 第4回 Commis Sommelier Concours 最優秀賞

2000年より「オテル ド ミクニ」「タイユバン ロブション」などを経て、2006年渡仏。パリ、エクサンプロヴァンス、カシスの星付きレストランで計6年間ソムリエとして従事。2012年に帰国し、「マンダリン オリエンタル 東京」にてソムリエを3年間務め 2015年11月に独立。
その後アカデミー・デュ・ヴァン講師を経て、2019年より キャプラン ワインアカデミーにてWSET認定講師を務めている。
海外ワイン産地での研修により、南アフリカワイン協会(WOSA Japan)エデュケーション・パートナーとして日本各地でのセミナー活動や、「WANDS」などで記事執筆も行っている。


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