顧客満足度が命! 日本酒飲み放題専門店 -料飲店トレンドと繁盛店事例 vol.10-

Vol.10は「顧客満足度が命! 日本酒飲み放題専門店」。1970年代以降は縮小傾向にあった日本酒市場ですが、世界的な日本食ブームの後押しもあり、ここ数年で息を吹き返してきています。国内でも地酒にこだわった料飲店や、日本酒をテーマにしたイベントが今なお増え続けており、まだまだブームは続きそうな様子。そんな中、首都圏で注目を集めているのが、セルフ方式の「日本酒飲み比べ」業態。従来の料飲店とは異なる気軽なスタイルで、普段は日本酒に馴染みの薄い20代の若年層からも支持を獲得しています。

今回はそのビジネスモデルを考案した元祖である、「日本酒セルフ飲み放題 けんちゃん」を取り上げます。

日本酒セルフ飲み放題 けんちゃん (東京・新宿)

東京メトロ新宿御苑前駅から徒歩約1分、新宿通りと靖国通りに挟まれた閑静な裏路地に建つ雑居ビル2Fに「日本酒セルフ飲み放題 けんちゃん」はある。

日本酒飲み放題・時間無制限・持ち込み自由のサービスを国内で初めて提供した「日本酒セルフ飲み放題 やまちゃん」を前身に持ち、日本酒フリークの間では“生ける伝説”とも称されている人気店だ。

入口のドアに小さな看板をぶら下げただけの簡素な店構えにも関わらず、開業時からの常連客や、インターネット上での口コミ情報を頼りに訪れる若者などで連日盛況。

客層の男女比は6:4で30代~40代が中心だが、最近ではF1層の女性が女子会利用で来店することも増えたという。

3,000円(税抜)定額で、厳選した100種類以上の日本酒が飲み放題というシステム。ドリンクショーケースには、店頭価格で3,000円~5,000円の値札をつける一升瓶がズラズラと並んでおり、ひと月の消費量は180リットルを超える。総合的な原価率を算出すると、なんと50%強とのこと。

もともと日本酒は原価率が高い酒種ではあるものの、同店が一般的な料飲店とは異なり、他のメニューで利益を補えない業態であることを考えれば、驚異的に高い数値であることは間違いない。

2016年に開催された「G7伊勢志摩サミット」で各国首脳にふるまわれたことで、一層入手困難となった名酒、三重県「木屋正酒造」の「而今(じこん)」。

酒販店では入荷後に即完売となる、埼玉県「南陽醸造」の「花陽浴(はなあび)」といった希少銘柄までが、飲み放題のラインナップに含まれることも。

加えて、会員登録をすると来店ごとにポイントが付いたり、SNSでハッシュタグをつけて投稿をするとポイントが貰える、独自ポイントキャンペーンをおこなっており、ポイントが貯まると、通常の飲み放題と並行して、日本酒の頂点に君臨する「十四代」をはじめとしたプレミアムな日本酒を無料で味わうことが可能だ。


また、持ち込みが自由なだけではなく、店内での調理が自由となっている点も大きな特徴。


各種食器はもちろんのこと、電子レンジにカセットコンロ、フライパンに土鍋に焼き肉プレート、まな板と包丁に菜箸やトングなどなど、ひと通りの調理器具を全て無料で貸し出している。塩に醤油に食用油といった、基礎調味料まで常備。

さらに、使用した食器や調理器具は、洗わずにシンクに置いていけばOK。ゴミや食べ残しも店側で回収するという、至れり尽くせりだ。

大量に食材を持ち込んでホームパーティーのように楽しんだり、お寿司の出前や宅配ピザのデリバリーを取ったり、つまみが無くなれば近隣の料飲店やコンビニエンスストアまで買い出しに出たりと、もはや屋内キャンプ場感覚。

だがここには、中途半端に料理を提供するよりは、その分にかかる人件費や食材ロスを完全にゼロに抑えて、かつシステムとオペレーションを極限まで簡略化することで業務効率化に繋げる、という狙いがある。

実際、営業中の作業は会計と片付け程度で済むため、スタッフ1名のみで運営する日も少なくないそうだ。


店主の “けんちゃん” こと東健一郎(あずま・けんいちろう)さんは、旧「やまちゃん」時代に客として足を運んでいた1人。 2年前に閉店の話が持ち上がった際に、「この場所を無くしたくない」と名乗りを上げ、経営のノウハウを学びながら日本酒のソムリエ「唎酒師」の資格も取り、2017年7月にお店を引き継いだ。

東さんが日本酒の魅力に開眼したという1本が、和歌山県「平和酒造」の夏季限定酒「紀土 -KID- 純米吟醸 夏ノ疾風」。爽やかな酸味と軽やかな旨味を持つ、すっきりとした透明感のある味わいで、日本酒の初心者にオススメしているとのこと。

他にもブーム間近な銘柄として、新潟県「加茂錦酒造」の「荷札酒(にふだざけ)」、岩手県「赤武酒造」の「AKABU」、茨城県「結城酒造」の「結(ゆい)」、群馬県「土田酒造」の「土田」の4銘柄を挙げていただいた。


「日本酒を割引価格で仕入れることはしません。蔵元との直接取引もおこないません。酒屋さんの利益を奪ってはいけないから」と熱く語るのは、創業者である “やまちゃん” こと山上博三(やまがみ・ひろぞう)さん。現在は「けんちゃん」のアドバイザー兼スタッフとして東さんを支えている。

「酒屋さんが一生懸命、日本中を探して選んで集めたお酒を紹介してくれるから、我々の商売が成り立つのです。料飲店の側でも、酒屋さんを守るという意識を持って、互いに信頼関係を構築することが大事。私はそれを築地の仲卸で学びました」。

底抜けに明るい笑顔がチャーミングな山上さんだが、もとは銀座や箱根の料亭で研鑽を積んだ板前で、30代後半にして魚介類の仕入れを学ぶために、築地市場の水産仲卸業者の門をたたき5年間修業。その後独立して、四谷荒木町に和食居酒屋を開店すると、たちまち1年先まで予約で埋まるほどの超人気店となって話題を呼ぶなど、飲食業の酸いも甘いも知り尽くした人物だ。

「以前経営していた居酒屋では、コース料理と日本酒飲み放題をセットで提供しており、そこから削っていく発想でした。冷蔵庫から出すところからお客様にお任せして、缶詰や乾き物すら置かない。となると、内装も設備も人員も最低限でいい。そうして浮いた分の諸経費をぜんぶ、美味しい日本酒を揃えるために使ってみよう」と、2013年6月の開業時を振り返る。

「お客様に本当に良いものを提供していれば、自然とリテラシーの高いお客様が集まるようになり、お店の空間そのものに魅力が生まれ、このお店を守っていこうという意識を持っていただけます。酒屋さんも含めた、そうした3者Win-Winの関係が築ければ、自然と利益も生まれるんです」。

高い顧客満足度を保ち続けるという観点で考えれば、近年の高原価率料飲店の方向性とも通ずるところがある。ともかくも、壁一面にびっしりと残された寄せ書きが、同店がいかに愛されているかを物語っていた。

同業態の競合店が増えている点に関しては、「日本酒の魅力を、もっとたくさんの人たちに知ってもらうために、そして日本酒業界全体を元気にするために、今まで通り、取り扱う日本酒の質にこだわり抜くだけです」と、“元祖” の自信をのぞかせる。

昨年12月には、巷で話題のスマホ決済アプリ「PayPay」を導入。「加盟店手数料を考えると痛いですが、ウチにも現金を持たずに来店する方が増えているほど。これからは確実にキャッシュレスの時代でしょう」と客目線の利便性を最優先する。

ちなみにクレジットカードは、「Visa」「Mastercard」「American Express」の3ブランドが利用可能。今後も電子決済サービスを積極的に導入する予定だそうだ。

店  名

日本酒セルフ飲み放題 けんちゃん

住  所

東京都新宿区新宿1丁目12-10 ネバーギブアップ2 月城ビル2階

運  営

東 健一郎

電話番号

03-5315-4688

営業時間

火~土 18:00~22:00
日   13:00~17:00
(※翌日が祝日の場合は18:00~22:00)

定 休 日

月曜日(※2019年8月から日曜日に変更)

坪数・席数

20坪・60席

禁煙・喫煙

全席禁煙

客 単 価

3,000円

開 業 日

2017年7月(※「やまちゃん」開業は2013年6月)

公式サイト

https://kenchan55.com/

この記事を書いた人

秋山シュン

Webライター/ブロガー/役者/芸人。食べ歩いた料飲店は4,000軒超。2007年に立ち上げた個人サイト「シグナル・ロッソ。」での記事紹介により、人気店となった料飲店は数知れず。サブカルチャーにも造詣が深く、2019年より秋葉原の事業組織「AKIBA観光協議会」公認ライターを務める。

グルメレポートを中心とした地域情報発信メディア「シグナル・ロッソ。」

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