「日本酒度」を理解して日本酒の味わいを身近にしよう!

日本酒の味わいを理解すると、より深く日本酒を楽しめるようになります。自分で飲む場合も、お客様にご提案する場合も同様です。日本酒の味わいは、甘い、辛いなどと表現することもありますが、日本酒の味わいの構成要素は「日本酒度」「酸度」「アミノ酸度」などがあり、これらが複雑に合わさって出来上がります。今回は、「日本酒度」を中心に、日本酒の味わいについて深掘りしてご紹介してまいります。

日本酒度とは

日本酒度とは、日本酒の醪(もろみ)の比重を計った数値です。エキス分(主に甘味成分)が多いと水より重くなるので数値はマイナスに、エキス分が少ないと水より軽くなるため数値はプラスになります。そのため、プラスの数字が大きいほど糖分が少ない辛口タイプマイナスの数字が大きいほど糖分が多い甘口タイプの日本酒になります。

日本酒度は「甘さ辛さ」の指標

日本酒でいう辛口酒とは、決して辛いわけではなく、甘口酒と比べて甘味が少ないという意味です。日本酒でいう辛口とは、白ワインでいう後口がドライな辛口と近いニュアンスがあります。残糖度が1リットルあたり何グラム以下なら辛口というような明確な基準はありません。あくまで、各酒蔵が設定した甘口、辛口です。ラベルへの表示義務はありませんが、原材料やアルコール度数と一緒に記載されている場合があります。あくまで瓶詰め時の数値であって、同じ数値のお酒でも時間が経って熟成が進むほど、甘く感じるようになります。しぼりたての新酒と、ひと夏を超えたひやおろしをイメージすると分かりやすいでしょうか。

日本酒度と味わいの違い

たまにラベルに「完全発酵」と表記されているものがありますが、糖分を食べきってすべてアルコールにすることで、アルコール度数は比較的高め、日本酒度はプラスの辛口タイプになります。逆に、発酵を途中で止めると、糖分が残るので、アルコール度数は低く、日本酒度がマイナスの甘口タイプになります。アルコール分13度以下の低アルコールタイプに、甘口が多い理由でもあります。日本酒度は、日本酒の味わいのひとつの目安にはなりますが、日本酒の味わいを決める要素は、原料米の種類、醸造方法、アルコール度数、香り成分、酸度、アミノ酸度など、他にもたくさんあります。そのため、日本酒度はプラスでも甘口タイプと感じられるような日本酒も存在するので、あくまでも目安のひとつとして理解しておきましょう。

味わいの基準は複雑。個人の感じ方にも差がある

同じものを飲んでも、味わいの感じ方は千差万別です。個人的に、日本酒と料理のペアリングを楽しめる日本酒の会を40回以上主催してきました。のべ数百人の参加者の方の反応からも、味わいの感じ方は個人差がたいへん大きいです。個人的な印象では、料理の評価以上に、日本酒の味わいの感じ方には差が出るようです。

日本酒の構成要素は酸度など複雑

日本酒度さえプラスだったらドライな辛口酒と思っている方も多いようですが、そうではありません。日本酒度がプラスでも、酸度やアミノ酸が低いなど、バランス次第では、甘口に感じられるお酒もあります。逆に、日本酒度はマイナスで甘口かと思いきや、酸度が高いタイプの場合は辛口と感じるような場合もあります。更に、酵母や麹由来の香りや、醪(もろみ)量による旨味成分の量など、味わいの要素はたいへん複雑に絡み合っています。

味わいの基準は人それぞれ

日本酒の味わいの構成要素が複雑なのに加えて、味わいを感じる主観的な基準も人それぞれ、百人百様です。特に、生まれ育った地域の食文化の違いが大きく出る傾向があります。料理の味が濃厚な文化圏であっても、日本酒は同じくどっしりした濃醇旨口タイプか、逆に淡麗辛口タイプか、地域によっても好まれるタイプは分かれがちです。日頃の食生活が洋食中心か和食中心か、日本酒をどれだけ飲んできたかの経験値、日本酒以外にどんなお酒をよく飲むかなど、味わいの傾向や基準の要因は多岐にわたります。

日本酒の味わいの構成要素

日本酒のラベルに表示義務があるのは、原材料名(特定名称酒の場合は、米、米麹、アルコール添加の場合は醸造アルコール)とアルコール度数、製造年月と、内容量くらいです。表示義務のある情報だけでは、アルコール度数の高低以外は、味わいはほとんど分かりません。日本酒の味わいに重要な要素は、アルコール度数に加えて、酸度、アミノ酸度、日本酒度があります。

日本酒のアルコール度数

日本酒(清酒)の条件は酒税法で定められています。アルコール度数の上限は22度未満まで。逆に下限は定められていません。そのため、日本酒と同じ醸造方法で造ったお酒であっても、アルコール度数が22度以上になると、リキュールや雑酒規格になります。日本酒と表記することはできません。原酒に加水して飲みやすさを調整した日本酒のアルコール度数は、15度前後のものが平均的です。一般的に、アルコール度数が低いものほど飲みやすいので、日本酒ビギナーにもお勧めしやすいタイプが多いです。逆に、アルコール度数が高くなるほど飲み応えが強くなるため、上級者向けです。加水をしていない原酒には、アルコール度数が20度前後あるものも少なくありません。焼酎やウイスキーなど、蒸留酒好きの方にはお勧めしやすいです。

日本酒の酸度

酸度とは、日本酒に含まれている乳酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸など、有機酸の量を表す数値で、主に旨味や酸味を構成します。醸造方法や使用する麴菌、酵母の種類によって、酸度の高い低い違いが出てきます。他の条件が同じお酒の場合、一般的に、酸度が高いと味わいは濃く感じる代わりに、甘味を感じにくくなり、ドライ(辛口)な印象を受けがちです。逆に酸度が低い場合、味わいは淡麗ながら、甘みを感じやすくなります。

日本酒のアミノ酸度

アミノ酸度とは、日本酒に含まれるアミノ酸の量を表す数値です。アミノ酸が少ないと淡麗に感じ、高いとコクや旨味、ふくよかさや奥行きを感じます。一方でアミノ酸が多過ぎると、雑味、オフフレーバーと感じられる場合もあります。渋みと酸味のアルギニンやグルタミン酸、旨味と甘味のアラニンなど、日本酒に含まれるアミノ酸は約20種類存在します。

目安としての日本酒度の度数

これまでご説明してきたように、日本酒度は、あくまでも甘辛度を判断するためのひとつの目安、参考値でしかありません。アルコール度数や、酸度、アミノ酸度など、ほかの数値と総合的に判断することで、お酒の味わいを、より正確に把握できるようになります。

辛口好きには日本酒度+10以上を

昭和の地酒ブームの頃は、糖類を添加したような甘口酒が多かったため、日本酒度がプラスであれば辛口酒と言われていた時代もありました。時代とともに、料理とお酒を一緒に楽しむ食中酒嗜好、食の洋風化、健康志向などから味付けの薄味化などを背景に、日本酒に求められる味わいも変化し続けています。スッキリとドライな後口を好む辛口好きには、日本酒度+10以上を。日本酒度の表記がない場合は、単なる辛口ではなく、大辛口や超辛口などの表記があるものを選びましょう。

甘口好きなら日本酒度ー5以上を

デザート酒ほど甘くもない、甘口日本酒のファンは、現在ではかなり少数派です。有名どころでは、甘口と思われがちな「獺祭(だっさい)純米大吟醸45」でも日本酒度はプラスです。甘いカクテルやチューハイを好む方には、甘口ではなく、次項の極甘口タイプをお薦めします。

日本酒度-50〜 極甘口デザート酒

現在は糖類に頼ることなく、米と米麴、水だけで、まるでアイスワインやミードのような芳醇な香りと甘みが感じられる、食後酒にぴったりの日本酒も存在します。日本酒の目安としては最低でも-30度以上、できれば-50度以上あるものをお薦めいたします。

まとめ

重複になりますが、日本酒度とは、あくまでも日本酒の味わいの目安の一つでしかありません。プラスになるほどドライな辛口、マイナスになるほど甘口に感じられるという、傾向はあります。ただし、日本酒の味わいの構成要素は日本酒度だけでなく、アルコール度数、酸度、アミノ酸度など、複数の要素で構成されています。そして同じものを飲んでも、出身地や嗜好などで味の感じ方は千差万別です。

また、料理に合う食中酒は、淡麗辛口とは限りません。酸度、日本酒度、アミノ酸度はラベル表示義務がないため、表示がないボトルが多いです。ただ、ラベルでは非公開でも、酒販店向けには情報公開している酒蔵も多いため、日本酒に強い酒販店では、味わいの詳細を把握していることが多いです。業態やメニューに合わせて日本酒メニューの充実をご希望なら、ぜひ「なんでも酒やカクヤス」へお気軽にお声がけください。

この記事を書いた人

西尾 明彦

年間取材100店舗以上を10数年の外食ライター。コピーライター。
日本酒会を40回以上主催する利き酒師。

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