ワインのトレンドを押さえる!日本市場で急成長のブルガリアワインの魅力とは

日本に輸入されているワイン生産国の中でも、東ヨーロッパで一番多く輸入されているのがブルガリアワイン(世界第12位)です。
ジョージアやギリシャワインよりもたくさん輸入されているはずなのに、消費者のみならずワインを扱うプロでもピンと来ない方は多いと思います。

だからこそ今、ブルガリアワインを知ることでトレンドにいち早く乗り、ワイン好きなお客様や同業のプロの方からも一目置かれる飲食店になってみませんか?

ブルガリアってどんなところ?

ブルガリアはバルカン半島にある、EU加盟国のうちのひとつです。ヨーグルトやバラで有名ですが、1980年代から90年代にかけてはEUの他国を席巻するほどのワイン輸出大国であり、当時はフランスに次ぐ世界第2位のワイン輸出国を誇っていました。

一大供給地であった旧ソビエト連邦の崩壊、さらに新世界ワインの伸びによってブルガリアのワイン輸出量は大きく低迷しましたが、現在は土着品種の栽培比率を上げて他国との差別化を図る流れや、諸外国でワインづくりを勉強した人々が戻り品質の向上の兆しが見え始めています。
そして輸出するワインの価格の平均金額がチリと同じくらい安い(¥396*/リットル)のがブルガリアワインの大きな魅力です。

世界のワインのトレンドをいち早く発信している大橋健一MW(マスター・オブ・ワイン)は「かつては国際品種ワインのお値打ち感で有名だった国が、今後は土着品種ワインのお値打ち感で注目されるだろう」と推測しています。

*)WANDS 2020データより参照

ブルガリアワインの歴史 〜6千年もの歴史あるワイン産地・酒の神ディオニソスの故郷〜

ルーマニアとの国境を隔てるドナウ川の南部、トラキア地方は酒の神ディオニソス(バッカス)が起源だとされており、ブドウをモチーフに金銀で飾られた出土品も発掘されています。紀元前8世紀に書かれたホメロスの物語にも、香り高い甘口ワインがトラキアで有名だったと記されています。

ワインづくりは7世紀にブルガリアが建国されてからも盛んに行われていましたが、14世紀にオスマン帝国の支配下に入ると、アルコールを飲まないイスラム教の影響によりワイン産業は衰退をしていました。ワイン産業の復活は1908年。オスマン帝国から独立がきっかけです。第二次世界大戦後にワイン産業は国営化され、旧ソ連市場を相手にした、ルカツテリなど旧ソ連の消費者が好む品種で、大量生産されるワインづくりが行われるようになりました。

1980年代には西側諸国と取引も拡大していき、メルロやカベルネ・ソーヴィニヨンといった国際品種の栽培が増え、フランスに次ぐ世界第2位のワイン輸出国となりました。
実は「ヴァラエタル・ワイン」と言われる品種名をラベルに表示する取り組みはブルガリアが最初でした。

<数値からみるブルガリアワイン>

  • ブドウ栽培面積:6万ha
  • ワイン用のブドウ栽培面積:2.15万ha(フランスのアルザス地方と同じくらい)
  • ワイナリー数:270(日本と同じくらい)
  • ブドウ栽培者:約10万人
  • 有名な土着品種:マヴルッド、メルニック、ルビン、ガムザ、レッド・ミスケット、ディミャット

ブルガリアのワイン産地 〜大きく分けて5つ〜

原産地呼称(PDOPDI)と品種を結びつけた特徴分けは残念ながらまだ進んでいませんが、大きく分けて5つの産地で特徴を表すことができます。

【北部】
ドナウ平原
(Danubian Plain)

ブルガリアで最大のワイン産地。北に接するルーマニアとブルガリアの国境を隔てるドナウ川。その南側一帯の地域です。夏は暑く晴れた日の多い大陸性気候で、石灰岩と黄土の粘土や砂質の土壌がモザイク状に広がっており、ミネラルを感じるワインがつくり出されます。土着品種の中でも特に黒ブドウのガムザが多く植えられています。
主要品種:メルロ、パミッド、カベルネ・ソーヴィニヨン、ミュスカ・オットネル、

【東部】
黒海沿岸
(Black Sea)

国内のブドウ栽培面積の30%を占める地域。
リゾート地としても有名な場所で、秋が非常に長くなかなか冬にならない地中海性気候で、赤ワインではピノ・ノワールが主役となっています。
主要品種:ディミャット、レッド・ミスケット、トラミナー、リースリング、ミュスカ・オットネル、ゲヴェルツトラミネール、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール

【中央部】
ローズ・ヴァレー
(Rose valley)

ブルガリアのシンボルでもある薔薇の栽培で有名な場所でレッド・ミスケットの故郷でもあります。
堆積土壌で風通しがいいこの産地は、現在ブティックワイナリーの建設ラッシュが起こっています。
主要品種:レッド・ミスケット、トラミナー、アリゴテ、ミュスカ・オットネル、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、パミッド

【南東部】
トラキア・ローランド
(Thracian Lowlands)

ブルガリアで最も重要なワイン産地。
南部に行くほど地中海の影響を強く受け乾燥しており、その恩恵でオーガニック栽培を始めるワイナリーが多く見られるエリアです。
主要品種:マヴルッド、ルビン、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、パミッド

【南西部】
ストゥルマ・ヴァレー
(Struma valley)

最も南のワイン産地。
マケドニアのエーゲ海の影響を受けて乾燥した典型的な地中海性気候。ブルガリア内でも一番晴れが多い地域です。
主要品種:メルニック、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、サンダンスキ・ミスケット

押さえておきたいブルガリアの土着品種

白ブドウ

Red Misket (レッド・ミスケット)

ブルガリア以外では見ることのない土着品種で、名前にレッドと付いていますが藤紫色の果皮を持つグリ系品種です。とても晩熟で、耐寒性に優れており、丘陵地帯と風通しの良い地域を好みます。ワインにすると淡い黄金の色調で、黄色い桃やトロピカルフルーツの香りと華やかさをもち、酸が低いワインとなります。

Dimyat (ディミャット)

耐寒性が乏しいため温暖な黒海沿岸で主に栽培されています。ワインにすると明るいアンバー色で、華やかな香りをもちフルーティでフレッシュな味わいになります。

黒ブドウ

Melnik (メルニック)

ストゥルマ・ヴァレーを中心に栽培されていおり、偉大なワインをつくると評判です。タンニンはソフトながら芳醇さとエキゾチックな芳香のあるパワフルな赤ワインとなります。

Mavrud (マヴルッド)

トラキア・ヴァレーで有名な晩熟品種で、何世紀にもわたって栽培されてきました。耐寒性が乏しく栽培の難しい品種です。果皮が厚くワインにすると濃く深みのある色調をもち、高い酸味で、カベルネ・ソーヴィニヨンに似た感じのワインになります。収穫したブドウを天日干しして糖度を高めてからワインに醸造する手法が伝統的にとられていました。

Gamza (ガムザ)

バルカン諸国では「Kadarka(カダルカ)」という別名でも知られていますが、最良の生産地はドナウ地方になります。薄い果皮で、ワインにするとラズベリーやストロベリーなどの赤系果実の華やかな風味、そしてタンニンが控えめなのでのピノ・ノワールに似た特徴をもっています。

Rubin (ルビン)

今ブルガリアでも注目度の高い黒ブドウ品種です。シラーとネッビオーロを掛け合わせた交配品種。リッチで渋みのしっかりとした赤ワインになり、カベルネ・ソーヴィニヨンと比べても2倍のタンニン量があるそうです。

土着品種をつかったおすすめワイン

シュヴァル ルビン/カタルジーナ
赤ワイン

シュヴァル ルビン/カタルジーナ

  • ブドウ品種:ルビン100%
  • 生産地域:トラキア・ローランド
  • アルコール度数:13%

豊かな果実味、滑らかなタンニンに上品な酸などシラーとネッビオーロ両品種の特性が感じられ、赤果実、オーク、スパイス香が一体となりヴェルベットのような柔らかい舌触り、長い余韻を味わえます。

容量:750ml

参考価格:2,320 円(税抜)

メゼック マヴルッド/カタルジーナ
赤ワイン

メゼック マヴルッド/カタルジーナ

  • ブドウ品種:マヴルッド100%
  • 生産地域:トラキア・ローランド
  • アルコール度数:14.5%
  • その他:過去ヴィンテージ「JALファーストクラスラウンジワイン」採用、「料理王国逸品100選」選出、「日本で飲もう最高のワイン」金賞、「ラムワインコンテスト」グランドラムワイン選出、等受賞多数。

完熟果実のしっかりした味わいとタンニンとのバランスが良く、舌触りもなめらかで心地よい余韻が長く続きます。

容量:750ml

参考価格:2,490 円(税抜)

レネア ディミャット/マルシュ
白ワイン

レネア ディミャット/マルシュ

  • ブドウ品種:ディミャット100%
  • 生産地域:北部黒海沿岸
  • アルコール度数:12%

美しく輝く淡いペールイエロー、ライムなどのシトラスから蜂蜜・生のナッツのアロマとカモミールのニュアンス。フレッシュで生き生きとした酸味とミネラル感が感じられ、滑らかな口当たりとグレープフルーツを思わせるほのかな甘みが広がります。フルーティーで飲みごごちの良い癒し系白ワインです。

容量:750ml

参考価格:1,420 円(税抜)

価格は掲載時点の参考価格です。

番外編 〜ブルガリアワインは国際品種もコスパ良し!〜

ブルガリアには樹齢の高い(栽培面積の半分以上が30年を越す古樹の)国際品種がたくさん栽培されています。実は土着品種が注目されている今でもワイン用ブドウの栽培面積1位はメルロ、2位はカベルネ・ソーヴィニヨンです。それらの国際品種の古樹から、非常にコストパフォーマンスの良いワインがつくられています。

国際品種をつかったおすすめワイン

カベルネ バイ エニーラ/ベッサ ヴァレー ワイナリー
赤ワイン

カベルネ バイ エニーラ/ベッサ ヴァレー ワイナリー

  • ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニヨン100%
  • 生産地域:トラキア・ローランド
  • アルコール度数:14.5%
  • その他:2009年日本で飲もう最高のワイン「愛好家部門」プラチナメダル、「専門家部門」ゴールドメダル受賞

煮詰めた苺やドライフィグ、革やバニラのアロマも徐々に現れます。滑らかなアタックでタンニンも甘く、全体に柔らかな酸が行き渡っていてとてもエレガントです。複雑さを伴った果実味の長い余韻が感じられます。

容量:750ml

参考価格:2,230 円(税抜)

プティ エニーラ/ベッサ ヴァレー ワイナリー
赤ワイン

プティ エニーラ/ベッサ ヴァレー ワイナリー

  • ブドウ品種:メルロ、シラー、プティ・ヴェルド、カベルネ・ソーヴィニヨン
  • 生産地域:トラキア・ローランド
  • アルコール度数:14.5%

魅力的なメルローのフレッシュな味わい。ベッサ・ヴァレーで栽培されているメルローの品質と畑仕事の質の高さがよく理解できる、完熟した果実の心地よいアロマと口当たりです。チャーミングなラズベリーやミント、心地よいオークの風味が広がりなめらかなタンニンが感じられます。

容量:750ml

参考価格:2,400 円(税抜)

カベルネソーヴィニヨン&カベルネフラン&メルロー/ロゴダジ
赤ワイン

カベルネソーヴィニヨン&カベルネフラン&メルロー/ロゴダジ

  • ブドウ品種:カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロ
  • 生産地域:トラキア・ローランド
  • アルコール度数:13.5%

全体的にドライに仕上げられたボルドータイプの濃厚なワインです。

容量:750ml

参考価格:1,040 円(税抜)

シャルドネ&ヴェルメンティーノ/ロゴダジ
白ワイン

シャルドネ&ヴェルメンティーノ/ロゴダジ

  • ブドウ品種:シャルドネ、ヴェルメンティーノ
  • 生産地域:トラキア・ローランド
  • アルコール度数:12%

淡い黄色、熟した果実の豊かな香り。まろやかで果実味あふれる芳醇な味わい。

容量:750ml

参考価格:1,040 円(税抜)

価格は掲載時点の参考価格です。

サステイナブルな取り組み

ワイン産業に関わるものとして、品種や産地名を覚えることと同じくらい、サステイナブルな取り組み(自然環境への配慮、労働環境の改善など)をしているかということは国際的にも、とても重要な視点となっています。
ブルガリアはワイン業界に雇用されている女性の割合が世界の中でも高く(47%)、ジェンダー平等の先進国であるアメリカ、カリフォルニアでも14%にとどまることを考えると、女性の活躍の場が広い印象を受けます。ブルガリアの人にとってもこのことは誇り高いことのようです。

さいごに

今回、ワインの最新トレンドとしてブルガリアワインについてお話しました。

しかしいざブルガリアワインを「お店のメニューに入れてみよう!」と思っても、どこの仕入業者が取り扱っているかわからないですよね。ピンクの看板が目印の酒屋、なんでも酒やカクヤスではブルガリアワインも多数取り扱っています。気になるワインがありましたら、なんでも酒やカクヤスに相談してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

松木 リエ

  • WSET Level 4 Diploma(2021年合格)
  • A.S.I. 世界ソムリエ協会認定 インターナショナル・ソムリエ・ディプロマ- ゴールド(2020年合格)
  • J.S.A.認定 ソムリエ・エクセレンス(2014年合格)/ SAKE DIPLOMA(2017年合格)
  • WSET Level 3 Certified(2016年合格)
  • IWC インターナショナル・ワイン・チャレンジ審査員
  • 2015-2016 WSET Level3 Decanter Asia Wine Scholarships
  • 2014年 第7回 全日本最優秀ソムリエコンクール 第4位
  • 2006年 第4回 JALUX Wine Award 準優勝
  • 2005年 第4回 Louise Pommery Sommelier Concours 第3位
  • 2005年 第6回 ロワールワイン若手ソムリエコンクール優勝
  • 2003年 第4回 Commis Sommelier Concours 最優秀賞

2000年より「オテル ド ミクニ」「タイユバン ロブション」などを経て、2006年渡仏。パリ、エクサンプロヴァンス、カシスの星付きレストランで計6年間ソムリエとして従事。2012年に帰国し、「マンダリン オリエンタル 東京」にてソムリエを3年間務め 2015年11月に独立。
その後アカデミー・デュ・ヴァン講師を経て、2019年より キャプラン ワインアカデミーにてWSET認定講師を務めている。
海外ワイン産地での研修により、南アフリカワイン協会(WOSA Japan)エデュケーション・パートナーとして日本各地でのセミナー活動や、「WANDS」などで記事執筆も行っている。


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