宗教と食のルールとは?代表的な5つの宗教と配慮するポイントを紹介
インバウンド対策のために、店内の環境を整え外国人観光客を受け入れる準備をしている飲食店様は多く、集客のために欠かせない対応の一つとなっています。
海外からのお客様をお迎えするには、環境の整備とともにさまざまな宗教について知り、宗教によって禁じられている食材を知ることも重要です。
この記事では、世界の代表的な宗教の食に関する意識や禁じられている食材をご紹介します。
海外からのお客様に対して、集客を強化したいと考えている飲食店様は、ぜひご参考ください。
イスラム教
世界各地に居住しているイスラム教徒(ムスリム)ですが、とくに「アジア」「北アフリカ」「中東」で信仰している方が多いとされています。
唯一神「アッラー」への絶対的な服従を説く一神教の宗教で、7世紀の初めに「ムハンマド」が神の啓示をまとめた「コーラン(啓典)」と「ハーディス(ムハンマドの記録)」に基づき信仰が営まれています。
まずはイスラム教の食について、詳しくご紹介します。
イスラム教の食に対する意識
イスラム法(シャリーア)では、食事のマナーや食事に関する規制事項が多く定められています。食べることが許されている食品や料理(その他の行動も含む)を「ハラール(ハラル)=許されている」と呼び、その反対を「ハラーム(ハラム)=禁じられている」と呼びます。
毎日の食事でハラールとハラームに注意しながら生活しているとされていて、好き嫌いで食を判断するのではなく、神の教えに忠実に従うために行っています。
ムスリムはラマダンと呼ばれる期間、水を飲むことを含めた一切の飲食が禁止され、断食を行います。
イスラム教で禁じられている食材
イスラム教では、以下の食品をハラームとして禁じています。
- 豚肉
- 犬
- イスラム法に則って処理されていない食肉
- アルコール
- 血液 など
禁じられている食材としてよく知られているのは「豚肉」と「アルコール」です。豚肉は、加工品、食品添加物、豚を餌とした家畜、ラード、ブイヨン、ゼラチンなどの豚の肉や骨、油が使用されているものも食べることができません。
アルコールは、危険性や害があるとされているため、飲むこと自体が禁じられています。
豚肉以外の食肉に関しては、アッラーに祈りを捧げ、特殊な屠殺方法を行ったハラールミートしか口にできません。
さらに、「うなぎ」「イカ」「タコ」「貝類」「漬物などの発酵食品」に関しても、嫌悪感を示されることが多いため注意が必要です。
キリスト教
世界各地に居住するキリスト教徒(クリスチャン)ですが、とくに「ヨーロッパ」「アメリカ大陸」で多くの方が信仰しています。
神の国の福音を伝えた「イエス」が、罪のある人間を救うために自ら十字架にかけられ、その後復活したイエスを「キリスト(救い主)」として信じたのが始まりです。
イエスが天に昇ったあとは、イエスの教えとしてユダヤ教から受け継いだ「旧約聖書」とキリスト教独自の「新約聖書」を経典としています。
ここからは、キリスト教の食について、詳しくご紹介します。
キリスト教の食に対する意識
キリスト教は、食事に関する規律はゆるやかで、宗派によって禁止されている食品があるケースもありますが、キリスト教全体としてはとくに禁止されている食品はありません。
一部の宗派で禁止されているアルコールも、キリスト教全体としては禁止していませんが、お酒による泥酔は禁止しています。聖書の中には、アルコールを肯定しつつも酔うことは禁止とされる記述が多く存在します。
キリスト教において重要な「復活祭」の46日前の水曜日から、復活祭前日までの四旬節に断食をする習慣があり、「大斎」「小斎」と呼ばれそれぞれルールが定められています。
キリスト教(一部の宗派)で禁じられている食材
前述したように、キリスト教全体で禁じられている食事はとくにありませんが、以下の一部の宗派では食事制限があります。
- モルモン教 …… アルコール、コーヒー、紅茶、お茶(カフェイン)、タバコ
- セブンスデー・アドベンチスト教会 …… 肉類を避ける(菜食主義)
このように、キリスト教の中でも宗派によって禁じられている食材があります。
キリスト教では、食前、食後に神への感謝の気持ちを込めて祈りを捧げます。食事の制限がない方でも、クリスチャンの祈りを邪魔することがないように配慮が必要です。
仏教
仏教は世界各地で信仰されていますが、9割以上は「中国」「日本」「タイ」「ベトナム」「スリランカ」「カンボジア」「ミャンマー」「韓国」といった、アジア圏に居住しています。
紀元前5~6世紀頃にブッダ(お釈迦様)がインドで開祖し、その後世界各地に伝わったとされています。
仏教は、ブッダの教えに従ってそれぞれの立場で修業した僧侶や在家信者が、悟りを成道することを目標としています。
ここからは、仏教の食について、詳しくご紹介します。
仏教の食に対する意識
仏教では「不殺生」の戒律があることから、肉食は避けるべきものと考えられていて、精進料理の文化が生まれるなどされていましたが、現代では肉を食べる人も増えていて、食事に関する制限があるのは一部の宗派に限られています。
修行の一部として、食事内容や調理方法にルールを設けている僧侶も存在し、1日2食の食事で済ませるなどの生活をしている方もいらっしゃいます。
精進料理とは「仏の教えを守り、修行に専念するための料理」といわれていますが、日本では多くの権力者達が仏教を熱心に信仰していたことから、日本の食文化に精進料理が大きく関わっているとされています。
仏教(一部の宗派)で禁じられている食材
僧侶や信仰心の強い信者、一部の宗派では、以下の食材が禁じられています。
- 肉類(出汁、スープ、バター、ラードなどを含む)
- 五葷(ごくん)と呼ばれるニンニク、ニラ、らっきょう、玉ねぎ、アサツキといった臭いの強い植物
大乗仏教や中国系の観音信仰などは食事に関する規制事項があります。僧侶や厳格な信者もこれらの食材を避けている可能性があるため、食べられない食材をきめ細やかに聞き取る必要があります。
肉食が禁忌とされる場合、肉だけを避ければ良いというわけではなく、動物のエキスを使用したもの全てを食事に使用できません。そのため、植物性の油や出汁を使用するなどの対応が求められます。
ヒンドゥー教
インド、ネパール、バングラディッシュで信仰されているヒンドゥー教は、バラモン教という宗教から聖典やカースト制度(ヴァルナ制度)を引き継いでいます。
インドの伝統宗教や民族宗教とも呼ばれ、神様の数が多い多神教。また、キリスト教やイスラム教、仏教のような始祖や経典がないのも特徴です。
ガンジス源流域にある寺院が聖地として有名で、ヒンドゥー教徒が死ぬまでに行きたい場所とも言われています。
ここからは、ヒンドゥー教の食について、詳しくご紹介します。
ヒンドゥー教の食に対する意識
ヒンドゥー教では宗教が生活の土台となっていて、食の戒律が多くあります。とくに、誰と一緒に食べるか、何を使って食べるかといったことに敏感です。
穢れ(けがれ)に対する意識が強いため、食器や調理器具に対して穢れが感染するという思想があり、家族以外との食事を嫌う傾向があります。
カースト(ヴァルナ)が違う人とは一緒に食事をしない、左手は不浄の手であるため食事には使わない、人が口をつけたものは穢れがあるので食べないなど、さまざまな戒律が定められています。
ヒンドゥー教で禁じられている食材
ヒンドゥー教では、以下の食材が禁じられています。
- 肉類(牛肉、豚肉)
- 魚介類全般
- 卵
- 生もの
- 五葷(ごくん)と呼ばれるニンニク、ニラ、らっきょう、玉ねぎ、アサツキといった臭いの強い植物
ヒンドゥー教は、牛を神聖な動物として崇拝しているため食べることはありません。また、不浄な動物として豚も食べないので、肉食をする方でも食べるのは鶏肉、羊肉、ヤギ肉などです。
他の宗教と同様に、出汁やゼラチン、バター、ラードなどにも注意が必要です。
前述のように、禁じられている食材を調理した器具にも嫌悪感を抱く方もいるため、同じ油を使わないことや調理器具を変えることが必要となります。
ユダヤ教
ユダヤ教は、ヤハウェを唯一の神として信仰するユダヤ人の宗教で、モーセの律法を行動規律としています。キリスト教とイスラム教のルーツともなっているユダヤ教ですが、神と人間の間に介するものがいないのが特徴で、神の呼称である「ヤハウェ」を唱えることも禁じられています。
聖典は「トーラ(モーセ五書)」「ネヴィイーム(預言書)」「クトゥヴィーム(諸書)」の3部に分かれていて、3つの書をヘブライ語にして頭文字をとった「タナハ」と呼ばれています。
ここからは、ユダヤ教の食について、詳しくご紹介します。
ユダヤ教の食に対する意識
ユダヤ教徒の食生活は、食事規定「カシュルート」によって定められています。食べても良いとされる料理は「コーシェル(コーシャ)」と呼ばれ、適切に処理されている食事は「コーシャルミール」と呼ばれて機内食でも提供されています。
コーシェルが手に入りやすい地域に住むユダヤ教徒が多く、その地域には専門のレストランも立ち並んでいます。
安息日や祝祭日は「サバス」と呼ばれメニューが決まっていることや、断食日も設けられているなど、食生活は宗教が土台となっています。
ユダヤ教で食べてよいとされている食材
以下は、「カシュルート」で定められているユダヤ教で食べてよいとされている食材です。
- 4つ足の獣のうち、蹄がわかれていて反芻するもの(牛、羊、山羊、鹿 など)
- 海、川、湖に住むもので、ヒレと鱗のあるもの
- 猛禽類など一部を除く鳥
- イナゴやバッタなど一部の昆虫
ユダヤ教で禁じられている食材
- 豚肉(出汁やスープ、ソース、エキス、ラードなど)
- エビやカニなどの甲殻類
- イカ、タコ、クジラ
- 牡蠣など貝類全般
- イノシシ
- ウサギ
など
コーシェルに認定されるものとして、ユダヤ教の戒律に従い、動物に苦痛を与えずに屠畜をし、血抜き等の処理をする必要があるなど、その加工方法も定められています。また、血の色が見えるレアステーキのような調理方法もNGとされています。
また、食材そのものだけではなく、「乳製品と肉が同時に胃の中にあってはならない」ことも定められています。
乳製品と肉を組み合わせた料理(クリームシチューやチーズバーガーなど)だけでなく、同じ調理器具を使って調理することや、肉料理を食べてから時間を空けずに乳製品を口にすることも禁忌とされています。
ユダヤ教には「清い動物」と「清くない動物」という概念があり、神に捧げるために相応しくないとされる「清くない動物」は、自らも避けているのです。
ベジタリアン
ベジタリアンは、1847年に発足した「英国ベジタリアン協会」によってはじめて利用された言葉で、「健全に」「新鮮な」「元気のある」という意味のラテン語が由来です。
宗教的な理由から植物性食品を中心にした食生活を行う方もいれば、栄養や健康保持、生命の尊厳、環境問題などさまざまな理由から菜食にライフスタイルを移す方もいます。
ここからは、ベジタリアンの食について、詳しくご紹介します。
ベジタリアンの食に対する意識
ベジタリアンは、宗教上の理由以外にも、食肉を食べることで増加する健康リスクを減らしたり、大規模な森林伐採や大量の水を使用する畜産業を減らしたりすることなど、個人個人さまざまな目的があります。
Vegiwelが2023年1月に調査した「日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査」の結果によると、日本人でベジタリアン、もしくはヴィーガンだと回答した方は5.9%となっており、前回の調査(2021年12月)に比べると0.8%増えていることがわかります。
海外からの旅行客の中にもベジタリアンは多いため、飲食店でもベジタリアン向けのメニューがあるとアピールポイントになるでしょう。
出典元:「日本のベジタリアン・ヴィーガン・フレキシタリアン人口調査」Vegiwel
ベジタリアンのタイプ別食べられる、食べられない食材
ベジタリアンにはいくつか種類があり、以下のようなタイプに分かれます。
食べない | 食べる | |
---|---|---|
ヴィーガン (ピュアベジタリアン) |
肉、魚介類、卵、乳製品(蜂蜜などの動物由来のものも口にせず、革製品なども使用しない) | 植物性食品、小麦粉 など |
オボベジタリアン | 肉、魚介類、乳製品 | 植物性食品、卵、小麦粉 など |
ラクトベジタリアン | 肉、魚介類、卵 | 植物性食品、乳製品、小麦粉 など |
オボラクトベジタリアン | 肉、魚介類 | 植物性食品、卵、乳製品、小麦粉 など |
ペスコ・ベジタリアン | 肉 | 植物性食品、卵、乳製品、魚介類、小麦粉 など |
ポーヨー・ベジタリアン | 鶏肉以外の肉 | 植物性食品、卵、乳製品、魚介類、鶏肉、小麦粉 など |
ベジタリアンの種類はさまざまなので、ベジタリアンかノンベジタリアンかを確認し、どのようなものが食べられないか事前に伺うことが重要です。
欧米では、大豆ミートや豆腐を使ったハンバーグなどがベジタリアンに人気の食事として提供されています。
旅行者への配慮で客数UPをはかる
ご紹介したように、宗教や嗜好で食べられない食材や食事がある旅行者は多いため、飲食店側としては、どのような食材を使用しているかの詳細を記載するなど、メニュー表示に気を付ける必要があります。
しかし、全てのメニューを多言語化するのは大変なので、メニューにピストグラム(アイコン、絵文字)をつける等で、旅行者への配慮をし、多くの外国人観光客が安心して食事を楽しめる環境を作ることが重要です。
まとめ
宗教と食のルールについて、詳しくご紹介しましたが、参考になりましたか?
日本人は無宗教といわれることもあるほど、宗教を信仰している方が少ない国でもありますが、外国人のお客様を迎え入れるには、それぞれの宗教について理解し、食べられない食材などを把握する必要があります。
なんでも酒やカクヤスでは、飲食店様に対して、メニューのご提案や繁盛店の情報を共有し、経営のサポートを全力で行っています。
インバウンド対策にお悩みの飲食店様は、ぜひなんでも酒やカクヤスまでどんなことでもご相談ください。
この記事を書いた人
カクヤス編集部
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